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Skypeに真っ向から挑む 「FaceHub」の可能性とは

FacePeer株式会社 代表取締役社長 多田英彦氏

FacePeer(フェイスピア、東京都港区)が展開する動画チャットのプラットフォーム「FaceHub(フェイスハブ)」は、「Skype(スカイプ)」のようにインストールもアカウント作成も行うことなく使える利便性の高さが自慢です。独自の技術開発により、ビジネス現場でも安心して使える品質を確保していることで、導入企業が広がりつつあります。インターネット大手の勤務を経て、昨年(2015年)秋に起業したばかりの多田英彦社長に今後の展望を伺いました。

Webブラウザだけで動画コミュニケーション

――多田社長はヤフー(Yahoo! JAPAN)を皮切りに、ディー・エヌ・エー(DeNA)や最近上場したオンライン英会話のレアジョブなど、多彩なインターネット事業者での勤務を経て、2015年7月に起業されています

ヤフーでは、当時「Yahoo!オークション」と呼ばれていた「ヤフオク!」の全面リニューアルを2年間かけて行いました。この頃は米国ヤフーのシステムをほぼそのまま使っていたのですが、それを日本独自のシステムに変更するという大掛かりなプロジェクトでした。

今につながるヤフオク!のシステムを作り上げたものの、その時なぜか「オークションの世界で巨大化しつつあるヤフーに対抗してみたい!」という思いが湧いてきまして、当時オークションサービス「ビッターズ」を展開していたDeNAへ転職しています。若かったんでしょうね。

レアジョブではシステム周りの責任者として2年半ほど勤務し、昨年の秋に機が熟したと判断して起業に踏み切りました。起業に際してはレアジョブさんから出資もいただき、応援してもらっています。

――動画チャットのプラットフォームとして開発した「FaceHub(フェイスハブ)」は、世界的な知名度を誇る「Skype」に真っ向から挑んでいますね

たとえばSkypeの場合、アプリのインストールや会員登録などを行わなければならず、知識がない方には壁があるのも事実です。この壁を壊すためにわれわれが開発したのが「FaceHub」です。Webブラウザさえあれば、Skypeのように対面でコミュニケーションが図れるのが特徴です。

――利用者はWebブラウザを立ち上げるだけで、動画でコミュニケーションが図れるということでしょうか?

はい、特別なソフトやアプリを新たにダウンロードする必要はありません。どんなパソコンやスマートフォンにも入っていますが、インターネットを閲覧するためのブラウザさえあれば、Skypeのように対面コミュニケーションができます。

――どのような技術を使っているのですか

WebRTC(Web Real-Time Communication)という技術です。Webリアルタイムコミュニケーションという名の通り、Web上でビデオや音声、チャットなどで対話ができるものです。

もともと米グーグルが開発した技術ですが、現在はオープンソースの標準規格として誰もが自由に使えるようになっています。米国ではWebRTCを使ったサービスが生まれつつあります。

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Facehubを活用した双方向コミュニケーションのイメージ

――標準技術であるWebRTCを使い、御社が独自にビジネス向けのチャットプラットフォームとして開発したということですね

FaceHubがまさに“ハブ”として、通信する人の間に介在することにより、1対1の通話だけでなく「1対複数人」や「複数人対複数人」などの通信も可能としています。ビジネス現場でも便利に活用いただけるよう、ビデオの自動録画や会話内容の自動文書化といった機能も備えています。

また、利用者によって通信を行う環境が異なっても、最適な環境を確保できるようにもしています。たとえば、スマートフォン間の通信であれば、機種によっては処理能力に違いがありますし、利用者が契約している通信会社によっても異なってきます。特に最近は大手3キャリアだけでなく、格安スマホと呼ばれるさまざまな企業が出ていますので、各社ごとに通信環境に違いが見られます。そうした利用者間の違いをFaceHubが上手く吸収し、調整していくことで、利用者に最適な環境を提供できるようにしています。

――起業してからまだ時間が経っていませんが、FaceHubのサービスや技術を活用する企業は増えている印象があります

最近の動きでは、関西の通信事業者であるケイ・オプティコムさんと、クラウドソーシングサービス「シュフティ」を運営する株式会社うるるさんの3社で、兵庫県 城崎温泉にてFaceHubを活用した「クラウド通訳」の実証実験を行っています。城崎温泉の店舗などに来られた外国人観光客の方の通訳を、クラウドソーシングを使ってリアルタイムに行う取り組みです。

このほか、バランスセブンさんが運営するスマホ完結型ダイエットサービス「B.B.7(ビー・ビー・セブン)」でも活用いただいています。

また、crewwのコラボレーションを通じ、オートバックスセブンさんとも取り組みを進めているところです。

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――crewwでは大手企業とのオープンイノベーションに応募し、既に採択されるなど積極的に活動いただいています

crewwコラボを実施する大手企業の方々はとにかく“熱量”が高いので、ファーストコンタクトがしやすいので本当に有難いです。コンタクトにかける時間を大幅に短縮できています。

通常、大手企業の方は、新しいことに対して「できない理由」から考えられてしまう傾向があり、そうなるとなかなか話が進みづらくなります。

――crewwでの活動やご自身の経験を通し、コラボを成功に導くためのアドバイスをお願いいたします

提案する前に相手企業の課題を必ず調べ、そこに向けた提案をすることが大事ではないでしょうか。大手企業の場合は、インターネットで調べるだけでもある程度、知ることができるはずです。また、担当者の方が上長に説明しやすいように、難しい言葉を使わないことも大事です。担当者の方は理解していても、上長の方が分かるとは限りません。

crewwでは、最初は大手企業の方と文章が中心のコミュニケーションが中心となりますが、文章でのやり取りが苦手な方もいます。やはり実際に顔を合わせて、対面でコミュニケーションをとることも重要だと思います。

―― ありがとうございました。


「FaceHub」の紹介ページ
多田英彦さんのcrewwでの紹介ページ
FacePeer株式会社

 

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子どもとファミリーに特化 企画と集客力でコラボ成功

GCG合同会社 CEO 岩楯信雄氏

GCG合同会社(東京都江戸川区)は“キッズやファミリー”を対象に、クルマや電車などの乗り物に特化した企画とマーケティングを行う企業です。2014年に初の大型イベント「きっずもーたーしょー」を考案し、2016年には「トミカ スタンプラリーin 東京ドームシティ」をプロデュース。子どもや家族向けに特化したイベントの企画力はcrewwコラボの現場でも注目を集めています。2014年10月に同社を立ち上げた岩楯信雄CEOに今後の戦略を伺いました。

タカラトミー時代は「エアギター」「チョロQ」に携わる

―― 岩楯CEOはデザイナーとしてキャリアを始められていますね

10代の頃、グラフィックデザイナーに憧れ最初に就職したのは広告業界でした。3年ほど働いたのですが、若さゆえか「やはり、これからはインテリアデザインの時代だ!」と考えが変わりまして、専門学校に通って新たに学び直し、大手ゼネコンに転職して7年間勤務しています。長野五輪関係の仕事やお台場のテレビ局なども担当し、本当に良い経験をさせていただきました。そして、次に転じたのが玩具メーカーのタカラトミーです。プロダクトデザインを学びたいとの思いもありました。

ただ、タカラトミーは企画職での入社でしたが配属されたのは、おもちゃショーなどのイベント企画やカタログ製作などを担当している部署で、社内でも長い間、商品企画希望の人間であるとは認識されていなかったようですね(笑)。イベントや入稿データ製作を任せられる“便利なヤツ”ということで、広報や宣伝の部署にいたこともあります。

――タカラトミーでは、赤外線の弦をかき鳴らせばギターのサウンドが楽しめる「エアギター」の企画開発に携わり、世間を騒がせました

GCG合同会社

広報や宣伝の仕事をやっている時に、社内で「岩楯はもともとデザイナーらしい」という話がようやく上司に伝わり、ディズニーさんのライセンス商品を企画開発するチームに呼ばれ、所属することになりました。

ミニカーの「トミカ」は主に男の子に好かれていますが、女の子にも親しんでほしいとの思いから、ディズニー仕様のトミカを企画したこともありましたね。ディズニーさんは、伝統的に斬新なアイデアを受け入れる素地があり、さまざまな企画を採り入れていただけたので、やりがいは大きかったです。

そんななか、センサーの技術を見つけ、これはおもちゃに使えるのではないかと感じて、エアギターを企画したのですが……。社内では「ディズニーのチームなのに、なんで大人向けのエアギターなんだ?」と騒がせてしまいました。

最終的にはGOが出たのは“おもちゃ屋”のカルチャーでしょうか。マーケティング費用もほとんどないなかで懸命にPR活動を行いまして、商品が話題を集めたのは嬉しかったです。

――「チョロQ」にも携わっていたそうですね

はい、ちょうど「チョロQ」が30周年を迎えるので、そのプロモーションを担当しました。ただ、イベントをやりたくても使えるお金があまりない。そんななか“ダメ元”で所ジョージさんに30周年のイメージタレントになっていただけないかとお願いに伺いました。所さんといえば「遊びの天才」であり、消費者にアンケートをとっても30~40代に圧倒的な人気があります。

所さんに事情を話すと、就任に快諾いただけたでなく、逆に面白いアイデアが次々と出てきました。そのなかからゼンマイで走る実物大チョロQを作って、東京モーターショーに出展したこともあるんですよ。

これを機に、所さんや事務所のスタッフの方と一緒にお仕事をさせていただくことが多くなったのですが、やりたいことを周りを巻き込んで楽しくやっていて、実に素敵だなと思いました。マンガで言うと「ワンピース」みたいな感じでしょうか。いつしか自分も「この船に乗りたい!」という思いが強くなり、後の独立につながっています。

――起業したのは、所ジョージさんとの出会いが大きかったんですね

2014年に独立した後もさまざまな仕事をご一緒させていただいています。グッズやイベントの企画など、今も所さんに関する業務は、GCGのなかで重要な位置を占めています。

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GCGの事務所はもともと自動車整備工場だった建物を活用している。「実家は今も整備工場をやっています。私自身も車が好きですし、チョロQやトミカに関わっていることを考えれば、知らぬうちに親の影響を受けているのかもしれませんね」

――一方、GCGでは立ち上げ早々に大型イベント「きっずもーたーしょー」を成功させ、今年(2016年)は「トミカ スタンプラリーin 東京ドームシティ」も大盛況でした

東京ドームさんと知り合えたのはcrewwさんのお蔭です。ある時、テレビの深夜番組を見ていたらcrewwの伊地知さん(CEOの伊地知天=いじちそらと)が出ていて、これは!と思って登録しました。

すぐに東京ドームさんによるコラボレーション説明会に参加したのですが、「おー、これがテレビに出てた伊地知さんかー」「IT系の方が多いのに、自分なんかがいていいのかな」とか「東京ドームと一緒に仕事ができる可能性があるのか、すごい!」と、最初はちょっと社会科見学みたいな心境でした(笑)

私はもともと東京ドームの隣、当時は後楽園球場ですが、水道橋の駅前にある都立工芸高校に通っていましたので、その集客力や影響力のすごさは若い頃から肌身に染み込んでいます。そうした思いからコラボに応募させていただき、採択までいただけたので感激しました。

東京ドームシティでイベントをしたいという方は無数にいますので、弊社が考えた企画が今年のゴールデンウィークに企画が実施でき、成功に導けたのでほっとしています。また、古巣のタカラトミーにも協力いただけたのはありがたかったです。

――子どもとファミリー向けの集客や企画が得意ということから、crewwコラボでは引き合いが多いそうですね

他の大企業のcrewwコラボにもエントリーし、お話させていただいています。また、同じくファミリーや子ども向けの事業をやっているスタートアップの方との「横のつながり」までできました。まさに“crewwさまさま”ですよ(笑)、本当に感謝しています。

――大企業での勤務経験に加え、コラボも進展させつつある岩楯CEOにスタートアップと大企業の付き合い方について、アドバイスをいただけたらと思います

まずは「相手の立場に立ってみる」ということです。自分が相手だったら、どう思い、どう考えるのかな?と。どうすれば、担当者の方がハッピーになれるのかを知ることです。次はみんながハッピーになれるように考えていく。そうしないと、面白いことはできませんし、起こせません。

私自身、企業組織のなかで何度も痛い目に遭ってきましたので、このことがようやく理解できました。

もう一つ申し上げたいのは、大企業と同じことをしていてもダメということです。たとえば、プレゼンテーションの場で、大企業が考えたり、プレゼンしたりするようなことをスタートアップがやっても勝てませんよね。コラボ先となる大企業の担当者の方は、大手からの企画書やプレゼンを頻繁に見聞きしていて、慣れているわけです。

スタートアップならではの独自性を打ち出さないと採択されづらい。「ちょっと変」と思われるくらいがいいのではないでしょうか。スタートアップに期待されているのは、大企業だったら決して提案できない“変なもの”ですから。

ともかく、何度もコラボに応募してみるのはいいことです。大企業の方とメールでやり取りしたり、お会いしたり、オフィスを見られるだけでも価値があります。

――ありがとうございました。


GCG合同会社「きっずもーたーしょー」の紹介ページ
岩楯信雄さんのcrewwでの紹介ページ
東京ドームによるcrewwコラボ(2015年)

 

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スタートアップとのコラボは 人と人のつながりから始まる

日本を代表するスポーツ新聞の1つとして知られる「スポニチ」を発行する株式会社スポーツニッポン新聞社は、500万読者を抱える知名度の高さと、66年間のスポーツ・芸能報道で培われたプロモーション力を生かした新たな展開を見据え、積極的にスタートアップとのコラボレーションに取り組んでいる。同社新規営業開発室の内匠俊頌(たくみとしのぶ)さんに老舗スポーツ新聞社が考えるコラボのあり方を聞いた。

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自力で切り拓き続けた道の先にあった起業という選択

株式会社NOWALL 代表取締役 柏木祥太

IoT(Internet of Things)という言葉も注目されている昨今、ビジネスにおけるプログラミングの需要は高まっている。そんななか、プログラミング教育に力を入れているのが株式会社NOWALL。柏木氏は中学生の頃からプログラミングを学び、フリーランスのエンジニアとして活動していたが、2014年にNOWALLを創業。創業後半年間は、企業のシステム構築の事業がメインだったが、エンジニアの育成に力を入れていきたいと考え、2015年より教育事業にも力を入れている。6ヶ月間の中長期プログラミング学習スクール「ELITES(エリーツ)」を2015年にリリース。プログラミングを学ぶだけでなく、仕事として活用できるための実践経験もカリキュラムに組み込んでいるのが特徴だ。

万年のエンジニア不足に応えるための地方での人材育成

―― オフィスの移転おめでとうございます。このオフィスのフロア、だいぶスペースがありますね。どれくらいの方が通常、働いているか教えてください。

社員としては、20人。半分強がエンジニア、それ以外がスタッフ。広報や営業は特にいません。空いたスペースでは、たまに外部の方が仕事をしていますが、スパルタキャンプのためにもこの広さが必要だったんです。今、隣の部屋は岩手県から来た人が泊まれるようにもしているんです。

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オフィス使用時。人が揃った時は椅子が足りないことも。

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キャンプ使用時

―― というのは?

2015年から岩手県八幡平市から依頼を受けてスパルタキャンプを開催しています。八幡平市には「起業志民プロジェクト」という起業のためのサポートプログラムがあって、市としてプログラミング教室を開催したいという考えがあったんです。

既に3回ほどスパルタキャンプが開催されていて、卒業生がエンジニアとしての即戦力として活動しているのですが、そのうち2人がこの4月弊社に入社してくれる運びになり、2ヶ月間東京オフィスで研修をし、また6月に岩手に戻るんです。岩手に戻るときには岩手オフィスも開設する予定です。東京オフィスは、まだこの規模なのでフレキシブルに使っています。

都心は常にエンジニア不足ですし、場所であったり、生活費であったり、プロとして活躍していくまでにもお金がかかります。「都内でなくても働ける」「地方からも人材を輩出する」ということには僕も興味があったので、このあたりは事例を増やしていきたいと考えていますし、地方創生につながるのではないかと考えています。

―― 数ヶ月で実務レベルのものが身に付くんですか?

3ヶ月、フルタイムは欲しいです。ただ、スパルタキャンプは土日を1ヶ月間、80時間というプランもあるんです。岩手との取り組みはまさにそうでした。そこから自習であったり、さらにブラッシュアップをしていったりするというのであれば、現場でも戦える人材が出てきます。

12歳から独学で学んだプログラミング言語

―― 柏木さん自体は、どのようにしてプログラミングを身に付けていったんですか?

12歳の頃からです。当時、モバゲーが流行っていて、あのような掲示板をつくりたくて、だけどプログラミングを習うどころか、中学生のときは本を買うお金もなかったので、図書館にある本を片っ端から借りました。Perlから入ったのですが、歯が立たなくて、少し挫折したところに、PHPという言語もあることを知りました。プログラミング言語というものは、ひとつではなく、幾つかある、ということも、手を動かしてから知ったことです。

そのうち簡単なSNSをつくって仲間内でつかっていました。仲間内でつかっていくつもりが、自然に広がっていて、運営費はそのSNS内や、自分でSNSの構築の仕方などをまとめていたブログサイトに設けたアフィリエイト(広告費)でまわしていたんです。中学生の時には月に10万円売り上げたこともあったのが、収益に波があって、高校1年生のときに、SNSを運営するためのレンタルサーバーの資金がショートしてしまった。それと受験勉強もはじめなければいけないということもあってSNSサイトは閉じてしまったんです。

とはいえ、その後、学校との折り合いのつかなさは加速して、高校2年で退学してしまうんです。退学するなら自分で生活するように両親に言われ、知人の会社で半年間程お世話になっていました。その後もかなりいろんなことがあり、紆余曲折したのですが18歳のときにフリーランスになりました。

―― 現在は22歳ですよね。社会に出るのが早い方であるとは思いますが、起業に至るまでに印象的だったことはありますか?

高校を中退したのも大きな転機ですが、2013年、僕が19歳の時に家入一真さんが企画した「スパルタキャンプ 【PHP編】 in 沖縄」。そこに主催者兼講師として参加していたのも大きな転機でした。そこで一気にひとの繋がりが増え、知人と会社を運営していこうとしていたのですが、うまくいかず、これならひとりで腹を決めて動こうと、14年8月に会社設立をしました。

―― そこからは順風満帆に?

そうですね。最初の半年はフリーランスの時の延長の請け仕事でしたが、2015年1月にエンジニア育成の教育事業も始められるようになりました。しかし、実際スパルタキャンプの形式だと時間と場所の制約を受けてしまうので、制約を受けず自分のペースで学べるようなサービスを作りたいという思いもあり、2015年3月からe-learning形式の「ELITES(エリーツ)」の構想に入り、2015年8月からスクーリング型のプログラミング教室を開始しています。e-lerningは数多くありますが、うちの特徴としては、システム開発の事業もやっているので、現場の知見がそのままプログラムに反映されていくというところにあります。

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壁に囲まれたエリートコースからドロップアウトして広がった世界

―― NOWALLという社名はどういう由来がありますか?

会社設立の時は、社名にもっとも悩みました。そこで以前から、知り合いだったフリーでコンテクストデザイナーをしている方にお願いしたんです。

「Now here,No where」という言葉と僕が起業に至るまでの経緯をかけて「NOWALL」という社名を考えてくれました。 「No Wall(壁がない)」でもありますが、「Now All(今が全て)」という意味もあり、それがしっくりときました。

―― なぜしっくりと来たんですか?

僕が中退した高校は進学校で、「壁に囲まれている」というのが印象に残っていたんです。そこを出て、とにかく目の前の視野がぐっと開けて始まったのが今だという僕自身の経歴もあります。

今はプログラミング教育の事業をやっていますが、プログラミングに限らず他の領域も攻めていきたいと考えています。要は、”学校では学べないことを学べる場所や、触れる機会を提供する”ということが大事なように思っていて。それが今のこの会社のビジョンにもつながっているのですが、狭い視野にとらわれず、いろんなことに挑戦してもらえるような場所や機会を提供し続けたいと思っています。

―― ありがとうございました。

株式会社NOWALL 代表取締役 柏木祥太さんのページ

 


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“共感のメディア”ならではの 新たなビジネスモデルに挑む

株式会社スポーツニッポン新聞社
取締役 成田 淳氏

日本を代表するスポーツ新聞の1つとして知られる「スポニチ」。株式会社スポーツニッポン新聞社(東京都江東区)は、500万読者を抱える高い知名度と、66年間のスポーツ・芸能報道で培ったプロモーション力を生かした次の展開を見据え、2015年9月にCreww株式会社のオープンイノベーションプログラムcrewwコラボを実施いたしました。多くのスタートアップから応募を集めた今回のcrewwコラボや新聞業界を取り巻く現状について、新規事業を担当する成田淳取締役に話を伺いました。

“紙”の次にあるモデルを発明する段階に

―― 成田取締役はスポーツニッポンの関連会社である毎日新聞社で、新聞制作の最前線から経営の現場まで幅広い経験を積まれてきましたが、現在の「新聞業界」をどう見ていますか

新聞というメディア自体は400年以上前からあり、毎日新聞社だけを見ても150年近い歴史を持っています。その役割は、世の中にある共通の課題を報じることにあり、スポーツ紙は生きる喜びを伝えるという目的を持っています。これはデジタル化しても変わりません。

一方、業界全体で見ると、紙の形で発行している新聞は、年に3%の割合で読者数が減っており、この15年ほどで社員数も20%減になりました。「紙」というパッケージモデルはなくなることはないにせよ、どこの新聞社も経営的には限界と言える状況にまで来てしまったのが現状です。

とはいえ、新聞社全体では社員数が少なくなっても、現場で取材する記者の数は減らしていませんので、プロのメディアとして、コンテンツのクオリティは落ちていません。課題はこのコンテンツをいかにマネタイズしていけるかです。デジタルに流すだけでいいのか、もっと付加価値を高めるためには何をすればいいのか、“紙”の次のモデルを発明しなければならない段階に来ています。

これまでのビジネスモデルに変革を起こすためには、外のアイデアを取り込まなければならないと考え、スポーツニッポン社として出した一つの答えがcrewwのオープンイノベーション「crewwコラボ」を行うことでした。

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スポーツニッポン新聞社は66年の歴史を持っている

―― 新聞の役割は変わっていないものの、今後のマネタイズ面で課題がある、ということでしょうか

いわゆる「全国紙」と呼ばれる大手新聞社の役割は「国家とは何か」「民主主義とは何か」ということを伝え、考え、守っていくことです。民主主義は“タダ”だと思われていますので、ここにお金を払っていただくのはなかなか難しいですし、“民主主義を守る”という目的で書かれた記事が読まれるとも限りません。

一方、スポーツ新聞は世の中の共通の関心ごとであるスポーツや芸能などを伝える役割を担っています。スポーツニッポン社では「楽しく元気な社会を築く」との目標を掲げているように、一般紙とは違い「共感のメディア」ということが言えます。そういう意味では、イノベーションを起こしやすい環境にあります。

―― 「共感のメディア」であるスポーツ新聞だからこそ、新しいことに踏み出しやすいということですね

一般紙はともすれば理想や理念を優先せざるを得ない面がありますが、スポーツ紙は世の中の本音を引き出し、上手く伝えることに長(た)けています。まずは「何でもやってみよう!」という企業風土ですから、今回のcrewwコラボにおいてもスタートアップの皆さんには「NG項目なし」とお伝えしました。

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―― 今、誰もが情報を簡単に発信できる時代ですが、新聞社の強みはどんなところにあるのでしょうか

ブログなどで発信している一般の方と、新聞社が発信する情報の違いは、膨大な情報のなかから必要な内容を選び出し、パッケージ化できることにあると思っています。また、先ほど、本音を伝えると言いましたが、本音をストレートに伝えると、嫌な思いをさせてしまうことがありますよね。読む人に嫌な思いをさせずに本音を伝えるのが、われわれプロの腕の見せどころです。この価値を生かしたビジネスをしなければと考えています。

一方、これまでの新聞は客観的な匿名記事が中心でしたが、これからは、記者一人ひとりがコンテンツ化していかなければならない段階に来ているように感じています。情報の新たな伝え方を模索しているところです。

―― 今回のオープンイノベーションでは多くのスタートアップから応募がありましたが、どのような印象を持たれましたか

社内からのアイデアは、どうしても旧来の価値観にとらわれがちですので、外の発想やアイデアをいただける素晴らしい機会で、本当にありがたかったです。

一方で厳しい見方をしますと、こちらの想像を超えるような提案がなく、類似サービスを提示いただくことが多かったのも事実です。

スタートアップの方による発想の本質と、スポニチが持つ価値をいかに融合させ、形にしていけるか、これからが勝負だと考えています。会社としては大きな期待感をもってコラボに取り組んでおり、社内に化学変化を起こしたいと思っています。

―― ありがとうございました

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成田取締役(左)とコラボ担当者の内匠俊頌さん

スポーツニッポン新聞社のcrewwコラボページ(2015年9月実施分)
スポーツニッポン新聞社のコラボ担当者・内匠俊頌さんのページ

 
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提案以外の可能性を引き出す 意思疎通とディレクションを

ジーエフケーマーケティングサービスジャパン株式会社
デジタルサービス部部長 三田村 忍氏

「GfKジャパン」の名で知られるジーエフケーマーケティングサービスジャパン株式会社(東京都中野区、藤林義晃社長)は、マーケティングリサーチの世界大手である独GfKの日本法人として、1979(昭和54)年11月に設立されて以来、日本における家電やカメラ、IT、通信などの市場調査会社として、業界で高い知名度を誇ります。crewwコラボでは初めてとなる「BtoB」企業によるオープンイノベーションに踏み切った背景について、同社デジタルサービス部部長の三田村忍さんに話を伺いました。

「BtoB」企業のオープンイノベーションとは

―― GfKジャパンといえば家電やIT、通信分野のマーケットリサーチ企業として業界ではかなり著名な存在ですが、オープンイノベーションを行った背景をお聞かせください

弊社がもっとも得意としているのはPOS(販売時点情報管理)トラッキング調査です。この「小売店パネル調査」と呼ばれるサービスは、どの商品がいつ、どこで、いくらで売れたかという最新の情報が得られるため、多くの企業にご活用いただいています。

テクノロジーの加速度的な進化伴い、リサーチ手法も変化する中、「こういう時だからこそ、現状におごることなく会社として新たな可能性を追求しよう」という気運が高まり、オープンイノベーションを行うことになりました。

一方、GfKジャパンはいわば「BtoB」企業ですので、家電やIT、通信などの業界では知られていますが、スタートアップの方々への知名度が高いとはいえません。そのため、どういう事業をやっている会社なのかということを丁寧に説明するように心がけました。

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GfKジャパンは市場調査の分野で知名度が高い

―― 最終プレゼンテーションが進んでいますね

コンシューマーの方を相手にビジネスを行っている「BtoC企業」の場合と比べれば数自体が多かったわけではありませんが、スタートアップの方々から大変有益なご提案をいただきました。

なかでも数社とは既に共同商品化などの動きが始まっています。また、そこまで行っていなくても何かできないか検討を行っているところです。

―― 今回のオープンイノベーションを実行するにあたって、社内で苦労した点はありましたか

社内的な苦労はまったくなかったですね。社長の肝いりで進めており、社長は「この金額で外部の優れた人々のアイデアを共有いただけるのなら安い!」という反応でした。私自身もデジタル分野で新規事業を立ち上げるために入社していますし、crewwは非常にセンスの良い仕組みだと常々感じていました。ですので、障壁はゼロです。これですと、インタビューにはなりづらいですかね(笑)

―― オープンイノベーションの実行過程ではいかがでしたか?

苦労ではないのですが、弊社の特徴としてオープンイノベーションの過程では、私を含め10名近くが参加するプロジェクトとして進めていきました。少人数で行う企業も多いと聞いていますので、この点ではめずらしいかもしれません。

みな自主的に立候補した社員で、始業前に毎朝会議を設定しても参加するくらいに高いモチベーションを持って臨みましたが、メンバーによってスタートアップ方への対応に差があってはいけませんので、同じ温度感を保つようには心がけました。

もう一つ気を付けたのは、スタートアップの方とのファーストコンタクト時です。最初にいただく提案のなかには若干“粗い”と感じる内容もあります。ですので、そこだけを見るのではなく、「こういうことが言いたいのではないか」と深く考えたり、「この部分を引き出せば互いに有益なコラボレーションになるのではないか」と想像したり、あらゆる面からスタートアップの事業が秘める可能性を考え、そこを引き出す努力はしていました。

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―― 意思疎通の面でも気をつかっていた

スタートアップの方が持つ世界観を理解する努力はもちろん、ファーストコンタクトからサードコンタクトまでの間に、いかにお互いの考えを上手く伝え合い、調整できるかが重要だと感じました。この部分をスムースに運べないと良いオープンイノベーションにはならない気がします。

コラボレーションでは、互いの利益になるようディレクションしていくことがもっとも大事です。

―― crewwコラボでのオープンイノベーションは社内でどのような評価を受けていますか

参加したメンバーからは会社とは別の“社会”が見えたという声がありましたね。また、プレゼンに参加した役員もポジティブな反応でした。

ただ、現在はスタートアップの方と現場とで議論をして次の段階へ進もうとしているところなので、成果が見えてくるのはこれからです。会社としては、今後もオープンイノベーションやっていこう、という雰囲気はありますね。

―― オープンイノベーションを行おうとする大手企業へのアドバイスはありますか

やはり、実際に提案された内容だけでなく、スタートアップの技術やサービスを自社においていかに使えるのかを考え、常に次の段階へ引き上げる努力をしていくことではないでしょうか。

また、社内的には色んな部署の人に呼びかけ、立候補制で参加してもらったほうが会社全体に良い効果が得られるように感じています。情報を公開して社内で共有し、“自分ごと”化してもらうための努力も大切です。

―― オープンイノベーションへの応募を考えているスタートアップへのアドバイスもお願いします

応募時の提案はテンプレートっぽく見えないように工夫することが第一です。そして、プレゼンまで進んだら、役員などの意思決定権者が出てきますので、窓口となる担当者とは異なるニーズを持っていたり、担当者との会話では当たり前だった用語が通じなかったりすることが考えられます。その点を意識してプレゼンを行っていただくことが大事だと思います。


ジーエフケーマーケティングサービスジャパン株式会社 http://www.gfk.com/jp/
GfK x creww ビッグデータを使ったオープンイノベーション(2015年) https://creww.me/ja/collaboration/gfk-2015

 
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大手企業に浸透する「イベレジ」 “大人ベンチャー”の戦略とは?

イベントレジスト株式会社 代表取締役CEO ヒラヤマコウスケ氏

「イベレジ」の略称で親しまれるイベントの告知・集客プラットフォームを運営するイベントレジスト株式会社(東京都渋谷区)は、ソーシャルチケッティングと呼ばれるサービスのなかでも、大手企業への浸透度で群を抜いています。日本経済新聞社との資本・業務提携を始め、最近では広告配信のフリークアウトと協業するなど、連携も積極的です。ヤフーやマイクロソフト、グーグルなど名だたるIT大手での勤務を経て起業したヒラヤマコウスケCEOに、“大人ベンチャー”ならではの戦略やコラボレーションのあり方を伺いました。

日本を代表する著名イベントで活用されるイベレジ

―――― イベントやセミナーを開く際、集客やチケットの販売で「イベレジ(EventRegist)」のお世話になるスタートアップも数多いと思うのですが、一方で日本を代表するような大型イベントでもプラットフォームを提供していたとは知りませんでした

イベレジはイベント名と開催日、チケットの設定をするだけで誰でもイベントの告知と申し込みページが作成できるサービスです。チケットを有料で販売する際は販売額の8%を手数料としていただいていますが、それ以外は無料ですので、企業や団体、個人に関わらずどなたでも手軽に使っていただけるものです。

一方、機能を拡張したプレミアム版もあり、来場者のトラッキングやプロモーションコードの発行、請求書発行や銀行振込対応、アンケートの実施など、大型イベントの主催者が必要とする機能がほとんど詰まっており、著名な大規模展示会ではこちらをお使いいただいています。このインタビューをお読みの方が参加されているはずのベンチャー関連の大型イベントでも、もちろんイベレジが使われています。

一方、ビジネスイベントでは集客面で苦労されている企業が多いという現状がありますので、イベレジの新たな展開として、フリークアウトさんと協業しながら集客ソリューションも展開していく予定です。

―――― イベントでの利用一覧を拝見すると、誰もが一度は見聞きしたり、参加したりしたことがある大規模展示会でイベレジが使われているケースが多いことに驚きました。自ら主催者として使わなくても、知らず知らずのうちにイベレジのお世話になっていることも多いんですね。驚きといえば、2014年に日本経済新聞社がイベントレジストと資本・業務提携を発表した時もそうでした

もともと私はメディア好きで、マイクロソフトの時は「MSN」におり、グーグルの時は「YouTube」の担当だったこともあり、コンテンツというものの重要性を身を持って感じていました。そのため、起業前にはテレビ局の子会社の立ち上げに参画し、実際にテレビ番組の制作などにも携わっていました。とにかく面白いことがしたいと考え、ネットとテレビの新しいチャレンジに熱中してましたね。

イベントレジストを起業したのも、テレビ番組などのコンテンツを作る過程で、表には出ない現場のリアルさこそが面白いということに気付いたからでした。

メディア好きという自分自身の志向もそうですし、大手メディア社にとってイベントは事業の柱となりうる存在ですので、相性が良かったといえます。また、弊社は積極的にアジア展開を行っており、日経新聞さんも同様にアジア重視の姿勢でしたので、同じ方向を向いていたわけです。もちろん、日経さんの主催イベントにもイベレジは使われています。

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―――― 米国でスタートアップを経験し、帰国後はヤフーやマイクロソフト、グーグルで勤務し、イベントレジストを起業してからは日経新聞から出資を受けている、ヒラヤマCEOは“大手企業キラー”なのでしょうか

IT大手に勤務していたのは事実ですが、すべて新規事業の立ち上げ担当です。一人部署からのスタートなので、さまざまな社内外の組織や人の協力を得なくてはなりません。そういう意味では、大手との付き合い方という面ではアドバンテージがあるかもしれません。

ただ、スタートアップで大事なのは、大手であろうと中小であろうと向かうべきベクトルが同じかどうかということです。確かに大手企業の場合は、担当者の方と会えるまでには苦労がともなうかもしれませんが、その手間をショートカットするための存在として「creww」のようなプラットフォームがあるのではないでしょうか。

―――― ありがとうございます、crewwを知ったのはどのようなきっかけだったのでしょうか

あるソーシャルチケッティングのベンチャーとcrewwの関係を感じ取り、「これは何だ?」と気にしたのきっかけだったかも(笑)。2~3年前、まだcrewwが初期の頃ですね。

―――― Ceww株式会社での先輩として、大手企業との付き合いに慣れておられるヒラヤマCEOにぜひ大手とのコラボレーションのあり方をアドバイスいただけたらと思います

アドバイスになるかどうかは分かりませんが、大手企業と付き合ううえでは、誰に話していいのか分からないとか、担当者の方がよく変わるので混乱してしまうとか、大手ならではの苦労がありますよね。でも、それを言ってもきりがない。だから自分たちの向かうべきベクトルと、相手の企業が同じかどうかが大事だと思います。ベクトルが同じだと、たとえ担当者が変わっても関係性は変化しづらいはずですので。

一方でスタートアップの方はとにかく外に出て人と会って話せばいいと思います。会えば印象にも残りますし、その先につながる確率が高まります。当たり前ですが、組織よりも人と人との関係です。

コラボの成否は、相手企業とのシナジーという面が重要となりますが、われわれも含め、大手企業が何を求めているのか、どこに注力してどこへ向かっているのかといった情報を得るのはなかなか難しい。だからこそ、双方の間に入って繋いでくれるCreww株式会社のような存在が大事になんです。精度の高いマッチングをしていただけるよう期待しています。

―― ありがとうございました。


イベントレジスト株式会社のcrewwページ https://creww.me/ja/startup/eventregist
イベントレジスト(EventRegist)のWebサイト http://eventregist.com/

 


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日本の伝統文化や美と技術を 組み合わせた斬新な空間演出

株式会社TECHMAC CEO 北口真氏

京都市内の伝統的な”町家”に本社を構える株式会社テクマク(TECHMAC)は、日本古来の和文化や「J-POP」と呼ばれる新たな日本独自文化に、現在のテクノロジーを組み合わせるという手法により、斬新なプロダクト(製品)を相次いで生み出しています。日本ならでは発想で技術開発を行い、1000年の古都から世界へ挑む同社。テクネ(技巧・芸術)に少しのマジック(魔法)をプラスした未来の創造を目指していくという北口真(まこと)社長に、その想いを伺いました。

伝統文化に彩られた京都で起業、町家に本社

―――― 北口社長は大阪に本拠を置くスタートアップとして知られるマインドフリー株式会社の取締役を経て、昨年(2015年)8月にテクマクを創業されています。起業にはどのような経緯があったのですか

確かにテクマクは起業という形にはなっていますが、引き続きマインドフリーでは取締役として経営に関与しています。実は2006年の創業時から参加している共同創業者でもあります。

マインドフリーでも創業以来、新しい表現技術に対して研究開発する部門の責任者をつとめてきましたが、この先のモノのインターネット(IoT)時代を見据え、どんな技術開発を行うべきか、行えるのかということをずっと考えており、新たなプロダクトを開発する部隊として、独立したカタチを別に立ち上げたのがテクマクです。

―――― そして京都に本社を置き、斬新な開発をしておられます

日本の文化とテクノロジーを組み合わせた開発を行いたいと考えていましたので、今も伝統文化に彩られた京都で起業するべきだと考えました。

京都の伝統的な町家に拠点をおいているのですが、こうした場所にいるからこそ、地元の伝統工芸の作家の方などと出会えたのは非常に良かったですし、長い歴史を持つこの街から世界に発信していくことが意義深いことだと感じています。

FIGURE STAGE
「FIGURE STAGE(フィギュアステージ)」での展示例

―――― 先日(2016年2月26日)に都内で開かれた日本テレビによる大型イベント「SENSORS IGNITION(センサーズイグニッション)2016」では、出展した「FIGURE STAGE(フィギュアステージ)」が話題を集めました

この「FIGURE STAGE」は、日本の和と伝統にテクノロジーをミックスさせたプロダクトです。これがどのようなものかは実際にぜひ体感していただきたいのですが、独自のポイントとしては、日本が世界に誇るもう一つの文化でもある「J-POP」を代表する存在であるフィギュアを演出するために開発しました。

簡単に言いますと、20センチ四方のガラスで作られた四角い”ステージ”にフィギュアを置き、LEDによる赤・青・水色・桃色・緑・紫・白の7色の光で演出するものです。ただ演出するのではなく、日本の伝統美を取り入れているのが特徴で、ガラス表現にはフィギュアの美しさを最大限引き出すため、女性的な美を含んだ設計を取り入れています。また、ガラスの外側には、表面に凹凸を波のようにつけて透かせた質感の和紙を用いることで、光がうつろう様子が映えるような繊細な色彩を作り上げました。

テクノロジーの部分ですが、このガラス状となった箱の付近を両手で優しく撫でるように空中を泳がせると、ステージの色や明るさを繊細に変化します。あえて、手から情報を読み取るというアナログなアプローチをとることで、フィギュアと人間のコミュニケーションを図ろうとの意図があります。

―――― 実際に会場で「FIGURE STAGE」を前に手を空中で泳がせてみましたが、なかなか色が変わってくれませんでした。難しいものですね

フィギュアとコミュニケーションをとろうというものですから、やはりそこは心と愛情を込めて手を浮かせなければなりません。まさにフィギュアを愛(め)でるように手を動かすのです。「実際には触れない“ふれあい”」とでも言えるでしょうか。

いまのFIGURE STAGEは、スマートフォンやアプリから遠隔操作できるような便利さや面白さを求めているプロダクトではなく、フィギュアとの関係を深めるために、「手」という最強の“デバイス”を用いることにしました

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愛でるように心を込めて手を動かさないと色は変わらない

―――― フィギュアへの愛がないと生まれない非常に奥深いプロダクトですね。このFIGURE STAGEのビジネス面では、どのような展開を考えていますか

FIGURE STAGEは一つのプロダクトではありますが、これを一つの“モノ”として購入いただくのではなく、FIGURE STAGEを中心に置き、空間を日本の伝統美によって彩り、演出することによる空間体験を訴求していきたいと考えています。これまで海外の方を中心に強い関心を持っていただいているところです。

―――― 確かに「SENSORS IGNITION(センサーズイグニッション)」の会場でも海外から来られている方は、必ず足を止めて興味深く眺めている様子がありましたね

われわれは単にテクノロジーを追い求めるのではなく、組み合わせることが大事だと思っています。それは伝統であったり、ストーリーであったりといったものです。そうした組み合わせを体現したのがFIGURE STAGEです。なので、単純な「箱」ではなく、空間体験という軸で訴えかけています。

―――― 以前からcreww(クルー)に参加いただいていますが、どのようなコラボレーションを期待していますか

crewwには随分前から登録をしており、昨年(2015年)は最先端IT・エレクトロニクス総合展である「CEATEC(シーテック)」で弊社がROHM株式会社さまと出品させていただいた「ときめきセンサ」をご覧、体験いただいたことがきっかけになりました。

コラボレーションについては、アニメや音楽などのJ-POPコンテンツを持っておられる企業の方とご一緒できればと考えていますし。また、「空間」・「場所」をお持ちの企業ですと、我々が演出をすることができますので、空間をアレンジしたいと考えている大手の方とコラボできると嬉しいですね。

―― ありがとうございました。


株式会社TECHMAC・北口真CEOのCrewwページ https://creww.me/ja/account/Makoto-Kitaguchi
株式会社TECHMACのWebサイト http://techne-magic.co.jp/
FIGURE STAGEのWebサイト http://figurestage.com/
ときめきセンサのWebサイト http://tokimekisensor.com/

 


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大成功をおさめたセブン銀行crewwコラボ

2016年2月8日からエントリーが始まった、株式会社セブン銀行(以下セブン銀行、東京都千代田区、代表取締役社長 二子石 謙輔)による「crewwコラボ」の本社プレゼンテーションが3月23日、24日の二日間に渡って開催された。

 

「あの街、この町にもっと便利を。」をテーマに、セブン銀行とスタートアップが「新しい便利」を一緒に生み出していくことを期待し、本プログラムは行われた。セブン銀行が採択されたスタートアップに対して、順次試験的にサービス連携やマーケティングなどでの支援をするほか、業務提携や出資も視野に入れている。ここまでの選考を通過した、株式会社BairTail、ドレミングアジア株式会社、株式会社ギフティ、株式会社レアリスタ、株式会社Residence、タメコ株式会社の6社のスタートアップが、事業採択の判断の場となる本社プレゼンテーションに臨んだ。

本社プレゼンテーション
<写真上段左より>
ドレミングアジア(ドレミングアジア)株式会社 桑原氏
株式会社ギフティ (giftee)大曽根氏
株式会社BearTail(Dr.Wallet) 高澤氏
<写真下段左より>
株式会社レアリスアタ(Holiday Ticket)和田氏
株式会社Residence (Residence)岡村氏
タメコ株式会社 (Tamecco )キム氏

プレゼンテーションは、スタートアップが自社のサービス紹介をするだけでなく、実際にセブン銀行と連携してどんな事業を展開するか提案、ディスカッションするというもの。本社プレゼンにはセブン銀行代表取締役社長の二子石謙輔氏をはじめとしたセブン銀行の役員ら、総勢20名強が並ぶなか、セブン銀行社員で結成されたcrewwコラボ事務局の積極的なファシリテーションにより活発なディスカッションがなされた。

この活発なディスカッションの裏には秘密がある。事務局は社内に対し、事前に「自由奔放な意見、極端な意見など、通常では出ない意見は尊重」「提案内容、発言内容に対する批判はNG」「できないではなく、どうすればできるかという視点で考える」といった、新しいことに挑戦する雰囲気づくりを促した。

得てして業務委託先からの提案を待つような姿勢になりがちな大企業とスタートアップのディスカッションではあるが、今回はそれを良い方向に裏切り、各社1時間弱の持ち時間いっぱいを使い、提案はさらに具体的に、実現性を帯びたものにブラッシュアップされていく。さて、気になる採択の結果は?

本社プレゼンテーション

※crewwコラボとは、新規事業創出を目指したプログラムであり、本プログラムは下記の流れで行われていました。
・セブン銀行がスタートアップ企業に提供するリソースを専用ページに公開
・スタートアップ企業が利用したいセブン銀行のリソースを選択
・スタートアップ企業が専用ページから共同事業内容をエントリー
・crewwコラボシステム内で両者がコミュニケーションを重ね実現へ向け協議

※オープンイノベーションは自社の有する経営資源や技術に頼るだけでなく、社外からの技術やアイデア、サービスを有効に活用し革新的なマーケットを創造することです。
※スタートアップとは、独自の技術やアイデアによって、前例のないビジネスモデルを作りだし、既存マーケットに挑戦する成長速度の速い企業を指します。

 
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オープンイノベーションが変えた 自社の風通し

国際航業株式会社 事業開発本部

長谷川浩司氏 藤原康史氏

まちづくりに携わっている人に絶大な知名度を誇るのが国際航業株式会社(東京都千代田区、土方聡社長)です。国土の姿を測量して正確な地図を作ったり、GPSなどを使って現在地を特定したりという地理空間情報事業に加え、太陽光発電事業やまちづくり支援といった「空間情報コンサルティング」を事業の柱に据え、日本やアジア各国での国土発展を支えています。まもなく創業から70年を迎える同社が挑んだオープンイノベーションの形について、事業開発本部の副本部長で事業開発部長の長谷川浩司さんと、同部新規ビジネスグループ長の藤原康史さんにお話を伺いました。

crewwに登録されているスタートアップのページを見てイメージを膨らませる

――国際航業といえば、地理空間情報技術の分野では誰もが知る大手企業ですが、Creww株式会社のオープンイノベーションに踏み切った経緯を教えてください

弊社は1947(昭和22)年から航空写真の測量をベースに事業を始めました。現在では、GPSに代表される地理空間情報と建設コンサルティング技術を融合させた「空間情報コンサルティング」を事業の柱に据え、さまざまな技術開発やソリューションの提供を行っており、お客さまの中心は官公庁です。

現在、1700人ほどの社員がいますが、技術者の割合が高い企業ですので、技術開発力を高めながら、より良いモノを作るというプロダクトアウト的な発想が中心にあります。一方で市場のニーズを捉えたマーケットイン的な取り組みも必要ではないかとの思いもあり、近年は社内でも新規事業の立ち上げやアイデア募集も行っています。

ただ、社内リソースだけですと、新たな技術やアイデアには限界もありますので、地理空間情報の計測技術の提供などを軸に、昨年(2015年)11月からオープンイノベーションにチャレンジすることになりました。

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国際航業は「空間情報コンサルティング」を事業の柱に据えている

―― 今回のオープンイノベーションは「失敗が許されない大きなチャレンジだった」とのことですが、実施までに苦労されたのではないでしょうか

Creww株式会社の担当者の方もCEOである伊地知天さんもしっかりとした考えを持っており、このオープンイノベーションにかけてみよう! と思い、実施に踏み切りました。ただ、会社として初めての試みですので、オープンイノベーションがどういう仕組みなのかを社内で説明する際には、丁寧に伝えることを心掛けましたね。

社内リソースの棚卸しやゴールの設定など、準備をはじめたのは昨年の夏前です。まずはcrewwに掲載されていた1700社ほどのスタートアップのページにはすべて目を通してイメージをつかみ、また、先にオープンイノベーションを実施していた大手企業にもヒアリングをさせていただき、アドバイスをもらっています。

スタートアップの方々へのオリエンテーションでは、官公庁ビジネスがどういうものか、また弊社はどのような要素技術を持っているのかなど、みなさんにご理解いただけるようにつとめて話しをしたところ、「今まで関わったことがない業種」「初めて聞いた」との好反応があるなど予想以上に盛況で、オリエンテーションを2回にわたって行ったほどでした。

―― 2015年11月下旬から募集を始め、数多くのスタートアップが応募しています

果たして応募があるのだろうかと不安もありましたので、ほっとしました。その後、部内の3人で手分けして内容を拝見するのはもちろんですが、やはり思いを直接聴きたいと思い、多くのスタートアップの方と実際にお会いしています。

このなかから10社の方にプレゼンテーションに来ていただきました。プレゼンの場には、弊社の社長や各事業の責任者だけでなく、持ち株会社である日本アジアグループの会長兼社長の山下哲生氏も参加しています。スタートアップの方には時間いっぱいまで説明をいただき、熱気あふれる場となりました。

―― 東証一部上場企業の社長が時間を割き、自らスタートアップの話を聴きに出向いたという点で、オープンイノベーションにかける御社の意気込みが伝わってきます。その後、どのような選考が行われたのですか

事業の具体性や弊社の受け入れ体制といった指標は作りましたが、やはり最終的には「本気度」といいますか、コラボ度といいますか、一緒にできるのか否かという点が大事だったように思います。プレゼンいただいた10社はいずれも評価が高かったのですが、最後は“やりたい度”という点を見て、7社とコラボを進めることに決めました。

以後は連日打ち合わせを行い、今では弊社の現場担当者とスタートアップの方が直接やり取りしたり、全国に持つ弊社拠点を一緒に回ったりもしています。今後、コラボの具体的な成果が徐々に見えてくるはずです。

半期に一度行われる全社的な説明会の場があり、今回の取り組みを全社員に紹介したのですが、他の部署からは「オープンイノベーションのような取り組みを行いたいのだが、どうすればいいのか」といった問い合わせも寄せられるようになりました。

―― 多数のスタートアップが参加した今回のオープンイノベーションですが、コラボにいたった企業といたらなかった企業の差はどういう部分でしたか?

応募いただいたスタートアップに大きな差はありませんでした。ビジョンを共有できるか否か、相性が合うか合わないかという部分が大事なのではないでしょうか。お見合いのようなものですから。

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オープンイノベーションを振り返る長谷川さん(左)と藤原さん

―― これからオープンイノベーションを行う大手企業の方にアドバイスをお願いいたします

われわれにとって大きなチャレンジでしたが、挑戦してよかったと思っています。アドバイスになるかどうかは分かりませんが、やはりスタートアップの方をリスペクト(敬意を表する)ことがもっとも大事ではないでしょうか。また、従来の固定概念を一度捨ててみることも必要かもしれません。

実務的な面ですが、オープンイノベーションを既に行った“先輩”となる大手企業に「あまり多くの人が関わるのではなく、少人数でやったほうがいい」とアドバイスをいただいたので、われわれもそのようにしました。一方で、社内での連携や各事業のリーダーに趣旨を理解してもらう活動は、積極的に行ったほうがスムースにことが運ぶはずです。

今後もオープンイノベーションは続けたいと思っていますので、ノウハウを貯めていくことはもちろん、今回とは異なる分野のスタートアップの方々とも積極的にお会いしたいですね。

―― ありがとうございました。


国際航業株式会社のcrewwオープンイノベーション紹介(2015年11月) https://creww.me/ja/collaboration/kkc-2015
国際航業・藤原康史さんのcrewwページ https://creww.me/ja/account/康史-藤原

 
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