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大手事業会社と相次いで提携し FinTech分野で注目集める存在に

クラウドキャスト株式会社 代表取締役 星川高志氏

マイクロソフトやDEC(現ヒューレット・パッカード)といったIT界を代表する世界企業で活躍し、2011年に自ら起業したクラウドキャスト株式会社(東京都港区)を「FinTech(フィンテック=ITで金融サービスを変革する)」界で注目を浴びる存在にまで育てているのが星川高志社長です。大手企業との提携経験も豊富な同社長にコラボレーションのあり方や起業までの経緯を伺いました。

マイクロソフトなど著名IT大手での勤務後に起業

――星川社長は名だたるIT大手での勤務経験が長いですが、起業までにどのような経緯があったのですか

実はこれまでの人生で2回の寄り道をしています。一度目は大学在学中の1990年代中ごろです。1年間休学して英国ロンドンへ留学しました。ここでインターネットの可能性を知ることになり、当時IT界でIBMの次に大手だった 米DEC(ディジタル・イクイップメント・コーポレーション)の日本法人に新卒で入社したのです。

その後、マイクロソフトへ転職し、米国本社直轄の部門やモバイルアプリ部門の中心となるエンジニアとして働いたり、オフショア開発のマネジメントを経験したりしました。社会人になってちょうど15年ほど経った頃でしょうか、2009年に青山学院大学大学院のビジネススクールに入学し、会社に勤務しながら企業経営のあり方を学び始めています。これが2回目の寄り道です。

マイクロソフトの社内にも優秀な人は確かに多かったのですが、起業家のマインドを持った人は少ない。ところが、ビジネススクールで出会った人は、まったく別世界です。ここで、起業家意識が養われたことが後の起業につながりました。

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―― そして、ビジネススクールでの研究の一環として、現在のクラウド経費精算サービスにつながるアプリの開発に踏み出すわけですね

2009年よりフリーランスとしてiOS上で“お小遣い帳”的なアプリ「xNote」を開発し、グローバル規模での開発プロセスとマネタイズの実験を行っていました。現在はアプリ販売だけで収入をあげるのは難しくなっていますが、当時は月に数十万円の収入になったほどでした。その後、2011年1月にクラウドキャストを法人化しています。

このアプリを法人向けに改良し、その年に行われた弥生株式会社によるアプリコンテストでグランプリをいただいたのを機に、弥生さんと提携することになりました。

―― 弥生としてはベンチャーへ出資するのは初めてのことでしたが、どういった背景があったのですか

当時の弥生さんはパッケージソフトが全盛の頃でしたので、弊社が開発したアプリ「bizNote for 弥生会計」は、弥生会計がクラウド化や将来的なスマホアプリに踏み出すためにも必要だったのではないでしょうか。提携については、弥生さんと弊社が補完関係にあったことが大きかったといえます。

両社間でシナジーを生み出せましたので、弥生さんとの提携は結果的に成功だったと思っています。

―― 2014年には現在の主力となる経費精算サービス「Staple(ステイプル)」を立ち上げました

Stapleはホッチキスの針(ステイプル)であるほか、形容詞として「定番・重要」との意味もあります。ビジネスパーソン向け経費精算の“定番サービス”にしたいとの想いで名づけ、開発したものです。

「Staple」では交通系ICカードや乗り換え案内アプリ、会計ソフトと連携ができるほか、ワークフローとして入力内容の申請や承認がスマートフォン上で行えます。とにかく手間がかかりがちな経費精算作業を大幅に軽減できます。現在、中小企業や、スタートアップを中心に多くの組織やチームで導入いただいているところです。サービスを通じ、ビジネスパーソンの生産性向上に寄与したいと考えています。

―― Stapleのリリース後、IMJグループやクレディセゾングループと相次いで資本提携を行っていますね

IMJさんは東南アジアへ進出するうえで心強く、セゾングループさんは3500万人の顧客基盤を持っていますので、弊社としてメリットは大きいと考えての提携です。日本では、スタートアップは事業会社と組んだほうがメリットが大きいと感じます。

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―― スタートアップにとって、大手企業との提携は敷居が高いようにも思えますが、次々と成功させているのは秘訣のようなものがあるのでしょうか

私自身、マイクロソフト時代から法人向けビジネスに長年携わっており、その経験と蓄積があったからかもしれません。ただ、相手はわれわれの会社と比べれば相当に大きな企業ですので、飲み込まれてしまうのではないかとの不安がなかったわけではありません。リスクとリターンは常に考えています。

―― Creww株式会社ではスタートアップが大企業とコラボレーションを行うためのプラットフォームを運営しています。そこへ参加しているスタートアップの方にアドバイスをお願いいたします

crewwは非常に良い仕組みですよね。スタートアップにとってチャンスが眠っているのではないでしょうか。

アドバイスという意味では、製品やサービスを開発するうえでの考え方から話しますと、キャズム(アーリーアダプターからアーリーマジョリティに普及する段階)を超える前の段階は競合が少なく、大きなチャンスが眠っています。大手新聞や著名ビジネス誌の記事に載った頃に開発を始めてももう遅いわけです。

提携やコラボレーションを行おうとする相手が、そうしたチャンスや可能性を理解しているかどうかが重要です。理解できていない人に話をしても決して上手くはいかないですよね。

先進的な考え方を理解できる人は10人に1人くらいはいて、大企業内にも必ず存在します。たとえば日本を代表するメガバンク内にもそうした人がいたからこそ、FinTechの世界ではメガバンクも支援を表明し、現在の盛り上がりにつながっているわけです。

誰に話をすれば共感してもらえるのか。ここを間違えないことが重要ではないでしょうか。

このあたりの詳しいお話しについては、「起業家はだれでも最初クレイジーと言われる」 という一文にまとめていますので、ぜひご一読ください。

―― ありがとうございました。

 

取材先 : クラウドキャスト株式会社   http://crowdcast.jp/ja/

 

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今だからこそ、家族のためのSNS「wellnote」

ウェルスタイル株式会社 代表取締役社長 谷生芳彦さん

ソーシャルネットワーキングサービスでのコミュニケーションが定着し、知人と会って会話をする以上に、写真や動画などを交えた投稿の共有やチャットで交流する、というコミュニケーションも当たり前になってきた。家族間のクローズドSNS「wellnote(ウェルノート)」がオープンイノベーションをしながら、提供しようとしているサービスは、どんな想いから生まれたのだろうか。ウェルスタイル株式会社の谷生氏に聞いた。

オープンイノベーションのプラットフォーム「creww」を使う理由

——自社だけでも、他企業にアプローチされてきたと思いますが、それとcrewwコラボの違いはありましたか?

crewwを使うメリットは、会う前から論点やトピックをある程度固めた状態でコミュニケーションが取れることですね。Creww株式会社という第三者が入ることで、ベンチャーでありながら、大手の企業とのやりとりにスムーズに入れることです。

——オープンイノベーションやcrewwコラボを進めていく上で、先方にスタートアップに対する理解のなさなどを感じたことはありますか?

それはないですね。企業や担当者の個性や相性だと思います。起業以前のキャリアとして、ゴールドマンサックスに10年間勤務していました。最初の4年間は機関投資家と呼ばれる大手金融機関担当として日本株式を営業する仕事をして、そのあとは事業法人部で、資金調達支援、共同投資提案、リスクマネジメント提案など、経営やファイナンス絡みのなんでも屋をしていたので、そのあたりには難しさを感じませんでした。

 

大学生の頃に描いた夢を10年後に実現

——ゴールドマンサックスでの勤務が10年ということですが、なぜ、起業しようと思われたのですか? 10年勤めたら、環境を変えていくことに躊躇はありますよね?

もちろん、かなり考えましたよ。「外資系金融でのキャリアを本当に捨てていいのか」「学生時代から起業をすると言い続けてきたけれど、なぜ起業するんだろう」といったことから、「幸せとは何か」「どんな人生が幸せなのか」という自分の根幹に関わることも日々自分に問い続けました。

でも、起業しない人生を送れば、死ぬときに後悔するだろうと思うようになりました。新しいライフスタイルを創造するという社会的意義があると確信できるこのチャレンジに挑戦してみたいという想いと、大学生の頃の「起業したい」という夢が重なって決意できました。

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——大学生の頃から起業はしたかったんですね。

そうなんです。当時90年代半ば、インターネットで世界が変わると言われはじめていました。大学の専攻も経営学でしたし、起業のまねごとのようなサークルも運営する中で、ベンチャーの本場であるアメリカのシリコンバレーに留学したいという想いが日に日に強くなっていきました。

大学の交換留学制度を調べてみたら西海岸のシアトルにあるワシントン大学経営学部への交換留学制度があったので、それに応募して、交換留学をしました。

留学していた1997年のシアトルはITバブル前で盛り上がっていました。マイクロソフトのビル・ゲイツはいますし、アマゾンドットコムのジェフ・ベソスもいるんじゃないかとか。彼らのような大きな事業をいつか創ってみたい、と夢がどんどん膨らんで。笑

 
——日本の大学にいた頃はいくつかサークルを運営されていたということですが、卒業していきなり起業はしなかったんですね。起業する前のステップとして、投資銀行を選んだのはなぜですか?

当時アメリカでは、大学で最も優秀な学生たちは、経営コンサルティングや、ウォール街のゴールドマンサックスといった投資銀行に入って数年経験を積んだ後、MBAを取って起業するという流れがあるなあと思ったのがきっかけです。

 

モノやサービスが変えていくライフスタイル

——退社後に起業して、ここまでくるのに順調でしたか?

しんどいだろうとは思っていましたが、順調なことより、大変な時間の方が多かったです。笑

特に何かを準備して辞めたわけではなく、私自身に子供が生まれ、その成長を両親に共有したいということもあり、家族SNSが必要になるだろうという着眼だけで退社したので、サービスの構築ができるエンジニアを探すことから始めました。これがなかなか見付からない。「エンジニアが見つかるまでは、サービスの開発を始めない」と決めていたので、スタートには時間がかかりました。

——2012年に「リアルの場のお茶の間をネット上に再現する」というコンセプトの家族限定のSNS「wellnote(ウェルノート)」を正式に公開されましたが、この手のクローズドSNSは少しづつ増えていますよね。
ようやくそのような新しいライフスタイルが創られてきたと感じます。メールからfacebookなどのSNSやチャットツールに移行し、そこに加えて、カップル間や家族間などのクローズドSNSがより必要になっていくと考えています。関係性やコミュニケーションの内容で、ツールを使い分けが進んでいくのがこれからの流れとなっていくと思っています。

例えば、子育て中のひとが自分の子どもについて、写真や動画を投稿するのはよくあることです。ただ、プライバシーだったり、気分的なものだったり、さまざまなリスクを考慮しなければならない場合もある。いわゆる「SNS疲れ」「Facebook疲れ」などと呼ばれる状態ですよね。それに対して投稿範囲を限定するといったやり方はありますが、設定に戸惑って、投稿が億劫になることが多いのではないでしょうか。

かといって、チャットツールでは、やりとりが流れてしまう。今すぐ返事を求める同期型コミュニケーションではなく、思い出として何かが残って残ればよい非同期コミュニケーションもニーズがあるわけです。

ディバイスも変化していっています。2010年はPCとガラケーでのメールが主流でしたが、今はスマホが台頭し、SNSやチャットアプリが増えています。これからはタブレットもますます増えていきます。

モノやサービスの機能そのものではなく、そのモノやサービスでライフスタイルがどう変わるのかを意識してサービスの開発をしていくことが大切だと思っています。

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——その変化に対応していくために、オープンイノベーションは欠かせないですよね。オープンイノベーションをしながら目指していることを教えてください。

wellnoteをまずは日本中の家族に使ってもらいたいということ。それによって幸せな家族を増やしたいという想いがあります。社会的意義のあるプラットフォーム、インフラの構築を通じて、世の中に新しいライフスタイルを創造することができれば、利益はあとからついてくると信じています。

 

取材先 : ウェルスタイル株式会社   http://wellnote.jp/

 

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