crewwコラボ 体験談 ― スタートアップ編

crewwコラボ 体験談 ― スタートアップ編

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「三井住友カード x ストーリーアンドカンパニー」ミライ募集中。ミライブックが生み出す、感動で溢れる未来

三井住友カード株式会社/ 西條 勇紀氏
株式会社STORY & CO./ CEO 細川 拓氏

体験シェアリングサービスを展開するストーリーアンドカンパニーと、主にカード決済事業を展開する三井住友カード。全く領域の異なる両社がcrewwコラボを経てタッグを組み、感動を生み出す新サービスをスタートさせる。その名も「ミライブック」。“人がいつか叶えたいと夢見るミライの実現をサポートする”という画期的な取り組みを通じ、「世の中に感動を与えたい」と西條氏と細川氏は話す。そんな世の中を感動で包むであろうキャンペーンの展開に至った軌跡について、両者に聞いた。

 
――まずはSTORY & CO.の事業内容と起業のきっかけについて教えてください。
細川拓(以下、細川):弊社は、旅の中での良い出会いが良い変化を生み、それが良い物語になっていく「出会いと変化の物語」というビジョンを掲げて2つのサービスを展開しています。“3時間の小さな旅”と銘打った体験シェアリングWEBサービス「AND STORY」。そしてもう一つは、大学内のカフェで学生と地域の人たちや旅行者が交流できる「U-CAFE」という事業をプロデュースしています。

起業のきっかけは、人の人生の変化を、より良いものしていきたいと考えたから。
大学生の頃にアパレルの会社を起業して、その後大手企業に入社して進学事業とブライダル事業に携わりました。服(おしゃれ)や進学、結婚など人の人生の節目を豊かにすることと向き合っていく中で、「人ってどういうときに変化を求めてアクションを起こすのか」と考えた時に“旅”だなと。
辛いことがあったら傷心旅行、ハッピーな新婚旅行などさまざまな旅の種類があるように、人生に何かしらの変化があると人は旅に出るんですよね。
自分自身も旅の中で「(現地で)どんな人に出会ったか」という部分から人生に良い影響を受けました。

ただ、旅先でローカルの人に出会うというのはそんなに簡単なことじゃない、ということを感じていました。日本では欧米風なコミュニケーションも少ないので交流のきっかけや場がない。交流を通じて出会いが生まれればなと思って、2つの事業を思いついたんです。
現在は設立して2年4カ月(取材時:2018年6月)ほど。2017年9月にリリース後半年たたないうちに東京メトロ様とのコラボも決まって、生まれて間もない事業にしては注目されてくるようになったかなと思います。

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株式会社STORY & CO./ CEO 細川 拓氏

――次にcrewwコラボを開催した理由をお聞かせください。
西條勇紀(以下、西條):弊社の本業の柱は(カード)決済事業なのですが、中期経営計画の中で新規領域の事業にも挑戦しようという方針があって。ただ、急に新規事業をと言ってもノウハウがなく、社内で打合せを重ねながら試行錯誤を繰り返していたんです。そこにcrewwコラボの話を取引先の会社から聞いて、これも試しにとアプローチしたのが始まり。元々は自分たちだけで新規事業を立ち上げようとしていたのですが、crewwコラボを使ってまずはノウハウを集めようと模索しました。
当初はエントリーがあるのか、どういった応募が来るのかと正直不安でしたが、応募数や事業の“匂い”がするものが思っていた以上に集まったというのが率直な感想です。

――その中で一番最初にお会いしたのがSTORY & CO.?
西條:はい、一番目にお会いしましたね。
弊社に集まってきた案件は、チームメンバーがドラフトのように選んでいったんですが、STORY & CO.さんは私のドラフト一位でした。あくまで個人的な印象なのですが、スタートアップの方は尖っているイメージを勝手に抱いていて(笑)。でも、実際に細川さんにお会いしてみて、そういった印象は全くなく安心しました。むしろ、話してみると考え方も近くて、初対面ながら会話がとても盛り上がったんですよね。会社同士というよりも個人同士でインスピレーションがすごく合って、友達になれそうな気もして、その瞬間から自分の中で(協業に対して)ギアが上がったのかなと思っています。

――第一印象から意気投合されたのですね。「AND STORY」にフォーカスした理由は?
西條:新事業検討のコンセプトとして「人に感動を与えられる事業」「世の中をより便利にできる事業」大きくこの2つを掲げていました。まず、“感動”ということを考えた時に「AND STORY」の事業紹介文を見て「これだな」とピンと来たところですね。

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三井住友カード株式会社/ 西條 勇紀氏

――ブラッシュアップの結果生まれたコラボの内容について教えてください。
西條:STORY & CO.さんがすでに展開している「AND STORY」のサービスをベースに、今回は逆に様々な方々から“やってみたいミライ(コト)”を募ろうと。その中から選ばれた「想い」の実現を、我々がお手伝いします。

細川:「ミライブック」というもので、簡単に言うと「あなたの夢の体験叶えます」というものですね。誰しもが持っているけれど、忘れてしまっていた「こんなことやりたかったんだよな」という体験の実現をサポートします。
ただ、「夢」と言い過ぎてしまうと「車欲しい」「家が欲しい」という自身の努力関係なく、棚ボタ的なことが多くなってしまうのではないかと思ったんです。そうではなくて、「やってみたかった!」という実際に自分が動いて掴み取る未来を叶えられるように、展開していきます。

西條:夢の応募はSNSで投稿していただき、それを叶えるホストをマッチングさせる。「AND STORY」は「体験を提供したい」というホストがいて、ゲストが予約をする。しかし今回はその逆。応募者が叶えたい未来を一緒に叶えていくというもの。実は僕自身が今更ながら独学でドラムをやり始めたんです。昔からずっとやりたいと思っていたのですが、ふとやり始めて、これが面白くて。自身の体験を通じてサービスを考えた時、自分の思いに対してトンと背中を押してくれる存在があったらもっと早く始められていたのにと。ぜひこの取り組みが、誰かの背中を押す存在になれたらなと思います。

細川:そして、細田(守)監督の最新アニメ映画「未来のミライ」とのタイアップも決まったんです!元は僕の思い付きで、子供と映画を観に行ったときに予告で見て、「未来」というキーワードが合うなと。それですぐ西條さんに電話して。僕は言う(提案する)だけで簡単なんですが、西條さんは大変でしたよね。

西條:それを連休直前に聞いて(笑)。でも、たしかに面白いタイアップになりそうだったので、ダメ元で配給会社さんに行ってみたんです。そうしたら「できそうですね」と快諾していただいて、スムーズに進みました。

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――映画とのタイアップも決まり非常に楽しみな企画になってきましたね。連携はスムーズでしたか?
細川:分担というより、企画の全体を細かくラリーして作り上げてきたので全部2人で整えていきました。

西條:たしかに、役割を分けてなかったですもんね。

細川:「(両者に)こんな強みがあるから、こういう事業やろう」といった進め方ではなく、「こんなことやりたいよね」という思いがあって、お互いの強みを出し合って2人で形を整えていった。協業する際にありがちなのですが「どっちの役割か」となると、立場的にスタートアップ企業側が背負わなければならない部分が多い。だけど、西條さんはめちゃくちゃ率先してやってくれたんですよね。

西條:企画を形にしたい一心でしたから(笑)。

細川:社内採択を通した後も、西條さんは絶対目的からブレないんですよね。僕の方からしても、(三井住友カード側の)社内の都合もあるからベストではなくともベターであればいいという部分も正直あったのですが、今回は100%ベストで進めることができた。だからこそ、僕も絶対成功させたいという強い思いがありました。

――「ミライブック」に期待すること、その後の青写真は?
西條:この取り組みを単なるキャンペーンだけでは終わらせず、サービスに昇華させていきたいですね。自分がドラムをやり始めたことで叶えたように、新しい世界を切り開いてもっと楽しい人生を送っていただけたら。一人でも多くの方に感動があふれるような人生になってもらえたら素敵だなと思っています。(やりたいことは)もっと早くやっておけばよかったって思いますしね、実体験として。

細川:「AND STORY」を始めたきっかけと一緒なんですが、人生を変化させようと行動するのは難しいんです。だけど、日々を惰性的に過ごして一歩前に踏み出せない人たちがたくさんいるなと。「ミライブック」では一歩踏み出しましょうというよりももっと進んで、一歩踏み出し始めた人が「(踏み出して)良かった!」と本気になれる世界を作っていきたいですね。

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ミライブックキャンペーン

――お二人の想いが詰まった「ミライブック」本当に楽しみにしています。最後にcrewwコラボを通しての感想をお聞かせください。
細川:crewwコラボの良い点は、事業を始める前に高い熱量を持って進められることですね。他のアクセラレーター(プログラム)は、ピッチコンテストのような形式でスタートアップ側が事業案から計画など全部作って2、3分のスピーチで勝負、というところがある。それではここまで高い熱量持てないだろうし、この事業すらも生まれなかった。スタートアップ企業、大手企業、Creww3社が一緒になって作ってきた、この形式だからこそ生まれてきたもの。他のアクセラレーターも全部この形式だったらいいのにと思います (笑)。

西條:イノベーションを起こすには、ITリテラシーや今までの経歴よりも、如何に人生を楽しもうとしているか、また、想い持って突き進めるか、これが大事なのではないかなと感じましたね。あと、人の育成においても良いプログラムだと思いますね。日々の業務では味わえないスピード感で、プログラムに沿って限られた期間の中で経営層にプレゼンして、曖昧なモノを形にしていく作業は、社会人としての成を促し、実績になれば自信にも繋がります。そういった意味でも良いプログラムでした。

細川:新規事業の成功予測は難しいですが、間違いなく人は育ちます。よくある人事の研修プログラムとは比較にならないくらい良いんじゃないかと思いしたね。新規事業には熱意や想いが必要で、既存の業務とは違う仕事になり、会社員としてどうかではなく個人としてのスタンス、心構えが如実表れ、それが結果に繋がります。ちゃんとやりきれるかどうか、形にできるかどうか、という自ら仕事を作る人になれる、そういう人を発掘できるプログラムでもあるのではないかと感じました。

 

■ 「ミライブック」キャンペーン概要
募集期間 2018 年7 月13 日(金)~2018 年8 月31 日(金)
対象者:日本に居住している方なら、どなたでも応募いただけます。
※三井住友カードをお持ちでない方も応募対象となります。
応募方法 Twitter、InstagramにてAND STORYの公式アカウント(Instagram:@andstory.co 、 Twitter:@_and_story_)をフォローし、ハッシュタグ (#ミライブック)とともにあなたが叶えたい「ミライ」を投稿

専用サイト:https://miraibook.andstory.co/
※本サイトはキャンペーン開始日、7 月13 日(金)にオープン

 

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「大手銀行 × スタートアップ × 伝統産業」。コラボレーションの先に見えた新たな“Crewwの役目”とは?【後編】

りそな銀行 地域オフィサー 奥田浩之氏

スタートアップと大企業、さらにローカルが交わる「オープンイノベーション」領域を開拓してきたCreww。同社は2017年1月より、「イノベーションのエコシステムを備えた街」神戸市と共同で「神戸オープンアクセラレータープログラム」を運営してきた。エントリー起業とスタートアップをキュレーションし、神戸市内で新規事業を創出させるプログラムだ。プログラム開始から1年、晴れて1つの新規事業が誕生した。りそな銀行と株式会社ギフティ、株式会社BUZZPORTによるデジタル地域通貨プロジェクト「旅するフクブクロ」だ。「旅するフクブクロ」は“デジタル化された商品券”。専用の電子ウォレットのページに保存された通貨から手続きを済ませることで、スマホ1台で決済が可能となっている。可愛いスタンプで決済が完了する可愛らしい仕様が特徴だ。
前編ではプロジェクトの概要、実証実験の様子をお送りした。後編となる今回は、プロジェクトに参画したりそな銀行の地域オフィサー・奥田浩之氏のインタビューをお届けする。

りそな銀行・ギフティ・BUZZPORTの3社合同で行われたプロジェクト「旅するフクブクロ」。日本有数の酒処「灘五郷」で、キャッシュレス化した新たな地域通貨を提供した。今回のプロジェクトは「大手銀行」「スタートアップ」「伝統産業」の3つの異なる産業が連携してのプロジェクトとなった。

今回は、プロジェクトを主導したりそな銀行の地域オフィサー・奥田浩之氏のインタビューをお届けする。奥田氏は、今回の事例を端に発し、承継者不在の“レガシーセクター”と若い世代が中心の“スタートアップ”がシナジー効果を発揮する事例が増えていくのではないかと指摘する。

銀行が旅行をパッケージング?購買行動を軸にした「ファンコミュニティ」の創出で、地方にお金を還流させる

―― 今回、Crewwの「神戸オープンアクセラレータープログラム」で株式会社ギフティ・株式会社BUZZPORTとの連携が決まりました。実際にエントリーされてみてどんな感触を得ましたか?
Crewwは圧倒的に登録されているスタートアップの数が多く、連携した2社以外にも可能性を感じる企業さんとたくさん話をさせていただきました。自力でウェブ検索で探すとなると非常に労力がかかるので、Crewwを介して様々な経営者とお話できたことはありがたかったですね。

―― 多くのスタートアップとお話を重ねた中で、今回はギフティ、BUZZPORTとの連携を決めました。決め手はなんだったのでしょうか。

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りそな銀行地域オフィサー 奥田浩之氏

銀行の3大機能は「決済、融資、預金」です。しかし、これから銀行が生き残っていくには、機能を高めるだけでは。お客さまに満足して頂くことが出来ません。顧客の記憶に残る質の高いUXを提供する必要があります。今回は質が高く、ユニークなUXを顧客にご提供出来る可能性を感じた2社と連携させていただくことを決めました。

―― 「大手銀行 × スタートアップ」は珍しい協業スタイルだと思いました。プロジェクトを進める中で、難しかったことはありましたでしょうか。
スタートアップと大手銀行で一番異なるのは文化です。銀行の人間とスタートアップの人間では使う言語が異なるので、コミュニケーションに少し難しさがありました。また、スタートアップは非常に動きが早く、逆に銀行側がスピードについていくのに苦労しましたね。スタートアップと関わる中で、逆に私たちの課題を認識できました。

―― 今回の「旅するフクブクロ」、最終的に目指すところとは?
私たちは今回のデジタル通貨を日常のあらゆるものに適用しようとは思っていません。目指すのは「ファンコミュニティのパッケージ化」です。

例えば旅行会社と組み、灘五郷へ行くプランを作るときに「電車や買い物、ホテルもすべてスタンプで決済が可能」というパッケージングです。キャッシュレスで電子スタンプを集めながら旅行する、新しい余暇の楽しみ方を提案することも目指す形の1つだと思っています。

―― 次のフェーズとして、どんなことを想定していますか?
デジタル通貨を広めるために、加盟店を増やすことが先決です。なるべく低い手数料で、加盟店が増えるような収益構造を考えていく必要があると思っています。

Crewwの新たな可能性“レガシーセクター×スタートアップ”で、良質な伝統事業を盛り上げる

―― 今回、地方の伝統産業と関わる中で、業界のさまざまな側面が見えたのではないでしょうか。
地方の産業の多くは経営に問題はありませんが、「次の事業」になかなか踏み出せないことが大きな課題の1つとしてあります。後継者問題も深刻です。今後、Crewwのスタートアップコミュニティ等と更なる連携を目指し、今回の試みに留まらず“レガシーセクター”の課題をスタートアップとコラボレーションすることで解決することができるのではないかと思いました。

―― スタートアップの若々しさを取り入れていくということですね。
地方では行政機関でもアントレプレナーを養成されたり、事業承継に取り組んでおられますが、まだまだ確度は高くありません。レガシーセクターの課題をスタートアップが解決するだけでなく、廃業してしまいそうな事業の「箱」を引き継ぐような動きができれば、面白いことができるのではないでしょうか。

―― なるほど。それは面白そうです。
「伝統産業」などを中心に、スタートアップが入ろうとしても入れない、参入のきっかけにが乏しい業界はたくさんあります。そういった業界にもスタートアップが入っていければ、面白い動きが生まれそうですね。

また、「もったいないなぁ」と思う地方の動きの1つに、良質な事業が廃業に追い込まれたり、ときには非常に安い値段で売買されているといったことがあります。Crewwの提供するプログラムが地方に広がれば、そういった問題も解決できる可能性があるのではないでしょうか。
 
ライター:半蔵門太郎
 
(了)
 
前編はこちら
 
りそな銀行:http://www.resonabank.co.jp/
株式会社ギフティ:https://giftee.co/
株式会社BUZZPORT:https://www.buzzport.tours/

 
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スタンプをポンッ!で決済完了。神戸・灘五郷で行われた、りそな銀行×ギフティ×BUZZPORTによる「デジタル通貨」実証実験に迫る【前編】

りそな銀行 地域オフィサー 奥田浩之氏

スタートアップと大企業、さらにローカルが交わる「オープンイノベーション」領域を開拓してきたCreww。同社は2017年1月より、「イノベーションのエコシステムを備えた街」神戸市と共同で「神戸オープンアクセラレータープログラム」を運営してきた。エントリー企業とスタートアップをキュレーションし、神戸市内で新規事業を創出させるプログラムだ。プログラム開始から1年、晴れて1つの新たな事業モデルが誕生した。りそな銀行と株式会社ギフティ、株式会社BUZZPORTによるデジタル地域通貨プロジェクト「旅するフクブクロ」だ。「旅するフクブクロ」は“デジタル化された商品券”。専用の電子ウォレットのページに保存された通貨から手続きを済ませることで、スマホ1台で決済が可能となっている。可愛いスタンプで決済が完了する可愛らしい仕様が特徴だ。まだ実証実験の段階ではあるが、可愛いらしいテイストで簡便化されたUIは、広く受け入れられていく可能性をみせる。今回は日本を代表する酒どころの1つ「灘五郷」で行われた実証実験の様子をお届けする。

ローカル特有の文化としてたびたび紹介される「地域通貨」。しかし、その成功事例はまだ少ない。その理由は、法定通貨と兌換できないことによる流通性の低さ、「わざわざ使うまでもない」と思わせてしまうユーザー体験の満足度の低さにあった。

りそな銀行・ギフティ・BUZZPORTの3社で行われた本プロジェクトは、そんな地域通貨に新しい風を呼び込む。「旅するフクブクロ」は、「福袋」と「スタンプ」の組み合わせによる楽しいUXを提供。「地域通貨」を使う理由となりうる「付加価値」をつけたサービスとなっている。

スタートアップと大手銀行。この異色のマッチングはCrewwが主催する「神戸スタートアップアクセラレーター」により実現した。今回は神戸の酒心館・菊正宗酒造で行われた「デジタル通貨」の実証実験の様子をお届けする。

スタンプポンッ!で決済完了。思わず買ってみたくなるUXとは?

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「旅するフクブクロ」の使用画面のサンプル

今回の実証実験に参加した100組200名には2万円分のデジタル通貨が支給されている。専用の電子ウォレットのページに保存されたこの通貨を使い、灘五郷の10か店をめぐり様々な福袋を購入することができる。

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ユーザーは使用する金額を記入し、購入するフクブクロを選択できる。酒心館では「2000円」「3000円」と2種類の福袋が用意されており、好きな福袋を選択できる。

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福袋の金額を選ぶとスタンプを押印する画面が表示される。

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店員がスタンプを押すと…

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恵比寿様を模したキャラクターが表示され、「決済完了」となる。

楽しく、思い出に残るUXが「旅するフクブクロ」の特徴だ。スタンプ技術は協業した株式会社ギフティの「Welcome!STAMP」の技術が応用されている。同社はIT技術を用いたギフトサービスが強みのベンチャー企業。先の「Welcome!STAMP」の導入事例には、長崎の五島列島で使えるデジタル商品券「しまとく通貨」がある。

このサービスは「日本酒」のようなコアなファンがいるコミュニティの熱量を上げることを期待されており、プロジェクトに参画したりそな銀行の地域オフィサー・奥田浩之氏はこう語る。

「デジタル通貨によるキャッシュレス化によりファンコミュニティの購買行動がより便利に楽しくなることで、オフライン体験の幅が広がり、ファンが増える契機になれば良いと思う」。

ITに不慣れな層でも安心して使えるUX。単なる「購買行動」が思い出に

今回の実証実験は、日本有数の酒どころとして知られる「灘五郷」の一角を担う「神戸酒心館」で行われた。神戸酒心館の醸造する純米吟醸「福寿」は、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞した折、受賞パーティでも振舞われたことで話題になった

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当日、天気はあいにくの雨だったが、店内は多くの人で賑わっており、日本酒の「コア」なファン層の存在を感じた。写真は大阪から足を運んできた女性。友達に勧められ、実証実験への参加を決めたという。実際に使ってみた感想を聞いた。

―― 実際に「旅するフクブクロ」を使ってみていかがでしたか?
スタンプの仕組みがおもしろかったです。財布やポイントカードを出す手間が省け、会計がすぐに終わるのですごく便利でした。友達から誘われて参加しましたが、友達とも盛り上がり、とても楽しい体験になりました。

―― 電子マネーは普段からよく使われますか?
電車のICカード乗車券以外はあまり使いません。

―― 今回「地域通貨」としての電子マネーを使ってみていかがでしたか?
クレジットカードで商品が購入できる形式だと、なんでも買ってしまい、制御がきかなくなってしまう怖さがありました。今回の「旅するフクブクロ」は商品券のように金額が設定されており、無限に使う恐れがありません。使いすぎる心配がなく、安心して買い物ができました。

つづく後編では今回のプロジェクトに参画した、りそな銀行の地域オフィサー・奥田浩之氏のインタビューをお届けする。「キャッシュレス化」が進む潮流の中で、このプロジェクトを実行することの意味は何か。どんな未来を実現したいのか、今後の展望について迫った。
 
ライター:半蔵門太郎
 
(了)
 
後編はこちら
 
りそな銀行:http://www.resonabank.co.jp/
株式会社ギフティ:https://giftee.co/
株式会社BUZZPORT:https://www.buzzport.tours/

 
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「ビックカメラ×ヒナタデザイン」がARで創造する新たな“お買い物体験”とは?【後編】

ヒナタデザイン 代表取締役 大谷佳弘氏
ビックカメラ 吉沼由紀夫氏
ビックカメラ 王睿氏

物流と消費者活動が変化していくなか、小売業態はオムニチャネル化していかなければ生き残りが難しくなる。今回取り上げるのは、ECサイト上で閲覧した商品を、ARを用いて実物大でチェックできるサービス「scale post viewer AR」。同サービスを手がけるヒナタデザインは、家電小売大手のビックカメラと協業。自宅で商品イメージを確認できることで、消費者に新たなお買い物体験を実現しようと奮闘中だ。「crewwコラボ」を通じて協業が決定した、両社の取り組む“EC革命”について話を伺った。

技術への理解が成功の鍵。協業を実現した“ブラッシュアップ期間”

―― 提案とアウトプットに変化があるとお伺いしまいしたが、ブラッシュアップ期間中に苦労された点はありますか?

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ヒナタデザイン 代表取締役 大谷佳弘氏

大谷佳弘(以下、大谷):当初の提案では、お部屋の画像データをお客様にも登録していただき、そこに商品画像データを配置するアプリでした。一方で、当時開発を進めていたARでの画像表示の提案に切り替えましたが、やはり新しい技術を取り入れるのは不安やリスクを伴います。そこを勇気を持って導入を決断していただけたことが、協業のポイントになっているのではないでしょうか。

吉沼由紀夫(以下、吉沼):ヒナタデザイン様のご提案は、我々が持つ課題を解決する上で相性がとにかく良かったのです。実物の確認ができないネットショッピングはもちろん、店舗で購入した場合でも、「自宅に運んでみたら入らなかった」というケースが一定数あります。それではお客様にご迷惑をかけてしまいますし、小売店としてはコスト負担が大きくなってしまいます。

AR技術について詳細は知っておりませんでしたが、ブラッシュアップ期間を通じて理解を深め、確実にニーズのあるサービスだと確信したことが大きかったです。

王睿(以下、王):実際に導入してみて、紹介ページを観てくださるお客様が一定数いらっしゃることを確認できました。まだ導入して間もないですが、ニーズを把握できたことは今後につながってくると思います。

住宅展示場に派生する新たなチャネル。ARで実現する小売販売の未来

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ビックカメラ 王睿氏

―― 今後、今回の協業から新たな取り組みに派生していく可能性はありますか?
王:主に当社のインターネット通販サイトで展開している現在の取り組みを、店舗にも拡げていきたいと考えています。将来的に、たとえば店舗で電子レンジなどを購入する際、自宅のラックに設置できるかどうかを店舗にいながら確認できるようになれば、非常に有意義です。

さらにその先には、自宅のリフォームをご検討中のお客様に対して、リフォーム後の部屋のイメージをシミュレートできるサービスも展開できれば良いですよね。実は、ビックカメラでもリフォームの提案を行なっております。

大谷:他社様との取り組みで、すでに住宅販売サービスと「scale post viewer AR」を掛け合わせた取り組みを実施しています。住宅展示場でビックカメラ様の商品をAR表示すれば、その場で購入される方もいるのではないかと考えています。小売販売の新たな形を提案できれば嬉しいです。

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ビックカメラ 吉沼由紀夫氏

吉沼:「これを買おう」と決めて店舗に足を運んでくださるお客様ではなくとも、たまたま店舗に足を運び、商品に興味を持ってくださった方に強くアプローチができるのではないでしょうか。

アプリをダウンロードしてくださった場合、自宅で再度商品をチェックすることも可能です。紙のカタログにQRコードを付与すれば、捨てられずにずっと持っていてもらえるかもしれません。今回の協業を皮切りに、ますますお買い物体験を向上させていければと思っています。

前編はこちら

 
ヒナタデザイン:http://www.hinatadesigns.jp/
ビックカメラ:http://www.biccamera.co.jp/bicgroup/index.html
ライター:オバラミツフミ
(了)
 
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「ビックカメラ×ヒナタデザイン」がARで創造する新たな“お買い物体験”とは?【前編】

ヒナタデザイン 代表取締役 大谷佳弘氏
ビックカメラ 吉沼由紀夫氏
ビックカメラ 王睿氏

物流と消費者活動が変化していくなか、小売業態はオムニチャネル化していかなければ生き残りが難しくなる。今回取り上げるのは、ECサイト上で閲覧した商品を、ARを用いて実物大でチェックできるサービス「scale post viewer AR」。同サービスを手がけるヒナタデザインは、家電小売大手のビックカメラと協業。自宅で商品イメージを確認できることで、消費者に新たなお買い物体験を実現しようと奮闘中だ。「crewwコラボ」を通じて協業が決定した、両社の取り組む“EC革命”について話を伺った。

高額な家電販売に、ARというソリューション。
“家電のO2O”を実現する、「scale post viewer AR」

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ヒナタデザイン 代表取締役 大谷佳弘氏

―― まずは、ヒナタデザインの事業内容について教えていただけますでしょうか
大谷佳弘(以下、大谷):スマートフォンで簡単に商品の実物大の大きさや色を確認できるアプリ「scale post viewer AR」を展開しています。もともとプロダクトデザインがしたくて会社を立ち上げたのですが、ウェブやUI設計/デザインも行う中で、諸々の試行錯誤を経て現在の事業へとたどり着きました。

―― 開発の経緯を教えていただけますか?
大谷:僕が役員もしているアーキノートという会社で、建築士のためのアプリを開発していたことがきっかけです。建築士の方たちはアイデアを模索する際に、何度かコピー機を使って図面を同じ縮尺に合わせています。それではとても面倒だろうと思い、スマホで写真を撮影し、デジタル画像で縮尺を合わせられるアプリをリリースしました。

すると弊社のクリエイティブアドバイザーをしている建築士が、「実物大でも衣装デザインを見たい」と言うんです。これまでにない発想だっただけに、とても面白いと感じました。実物大で画像を表示するサービスが世界中でなさそうだったので、そこから「scale post viewer AR」が誕生したのです。

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AR表示させたい商品のQRコードをアプリで読み取ると、カメラ越しの画面に実寸大で表示が可能になる。(詳細な使用方法はこちら)

大谷:「scale post viewer AR」は、スマホのカメラで映し出した光景に、特定の画像を実物大の大きさで表示することができます。たとえば冷蔵庫を部屋の中に置きたいと考えたときに、実際のレイアウトを購入前にARで確認できるんです。

今回crewwコラボを通じて協業させていただいたビックカメラ様とは、ECサイトで販売されている商品のうち、48のアイテムをAR表示できるようになっています。高額な商品でも、自宅で購入の意思決定ができるようになるのではないかと考えました。

小売大手が挑む“イノベーションのジレンマ”の打破。
ウェブから仮想空間へとつながる“新たなお買い物体”とは?

―― 小売店との相性が良さそうですね。ところで、ビックカメラ様が「crewwコラボ」に応募された理由を教えていただけますか?

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ビックカメラ 吉沼由紀夫氏

吉沼由紀夫(以下、吉沼):当社は、「より豊かな生活を提案する、進化し続けるこだわりの専門店の集合体」を目指して、事業の拡大を進めてきました。時代とともに変化するお客様のニーズに常にお応えしていくために、取扱い商品の拡大や接客・サービスの充実に努めることはもちろん、当社の店舗が“最新情報の発信基地”となり、新しい買い物のカタチを提案し続けることが重要であると考えています。
現在、当社は実店舗とインターネット通販サイトとを連携させ、今まで以上にシームレスで便利なショッピングの場をご提供できるよう、オムニチャネルの強化に取り組んでおります。そのスピードを加速させるためにも、他社様との協業や、スタートアップのノウハウを取り入れることに、大きな魅力を感じていました。

―― ECサイトを通じた、新たな買い物体験を生み出そうと考えたのですね。
吉沼:そうです。ただ、我々も初めての取り組みでしたので、小売りにとらわれずさまざまなご提案を受け入れようと考えていました。数十社からご応募をいただいた中で、ヒナタデザイン様はとても相性が良かったのです。

―― 実際にコラボをしてみて、社内の雰囲気に変化はありましたか?
吉沼:これまでの商談といえば、弊社に取引先の方が足を運んでくださるケースがほとんどでした。しかし今回のコラボでは、私たちがスタートアップのオフィスにお伺いし、非常にフラットな立場でアイディアを議論することができました。

今までは商品を取引するか、しないかを「判断する」ことが主なやりとりです。今回のようにアイディアをブラッシュアップしていく経験は少なかったので、非常に有意義だったと感じています。

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ビックカメラ 王睿氏

王睿(以下、王):「crewwコラボ」の中でもっとも有意義なのは、提案を受けてから社内プレゼンに至るまでのブラッシュアップ期間にあると思っています。ヒナタデザイン様とのコラボも、最初のアイディアと最終アウトプットは多少変化がありました。お互いのニーズをすり合わせし、また社内のリソースをどう活用するか話し合うことで、これまでにない取り組みができました。

特に今回は、現場でお客様の生の声を聞いている販売スタッフの意見を取り入れながらアイディアをブラッシュアップしていきました。役員が集まる社内プレゼンを、現場のスタッフが担当したケースもあります。「普段では経験できなかったものを得られた」という声が多数あり、素晴らしい知見が得られたと思っています。

後編は2月26日公開の予定です。

 
ヒナタデザイン:http://www.hinatadesigns.jp/
ビックカメラ:http://www.biccamera.co.jp/bicgroup/index.html
ライター:オバラミツフミ
(了)
 
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10年構想を形に。“オタク談義”から始まった「AnchorZ × ムラテック」の協業とは?【後編】

AnchorZ 代表取締役 徳山真旭氏

“誰にでも使える認証”の世界を目指し、「DZ-Security」を開発

―― 現在開発中のサービスについてお伺いできますでしょうか。
「独自の生体認証」と「ファイルを分散する」の仕組みを組み合わせたセキュリティサービス「DZ-Security」です。どちらの仕組みも世界特許を取得しているのですが、順を追って説明させてください。

まずは「独自生体認証」の仕組み。独自と言っている箇所の説明は割愛させていただくことをご容赦ください。生体認証の詐称をさせないための独自技術として例え話をします。詐称をしたい側から見たときに、鍵穴のないドアの合鍵は作れませんよね?そんな独自の発想と技術です。

「DZ-Security」の特徴は、指紋や虹彩、顔認証や声紋認証などの情報で本人を識別する生体認証として自在に活用します。いつ何の認証情報をチェックしているのか分かってしまうことは、詐称のタイミングを教えているのと同じことになります。前述した鍵穴の場所の例え話と合わせてご想像をいただければと思います。

―― もう少し具体的に教えていただけますでしょうか?
少し限定的かつ曖昧でわかりやすい言い方にさせていただきますね。たとえばスマートフォンには様々なセンサーがあります。このセンサーから利用者の使い方の癖を数値化して「その人だけの使い方」を認識に活用するんです。これを “振る舞い認証”としてDZ独自の活用をします。振る舞いにより、すでに本人かどうかが識別されている状態をできるだけ多く維持します。ただし、人間の生活や行動においてその状況は100%維持できるものではありません。そのために次に必要になるのが生体認証なのですが、これを前述した独自の生体認証で利用者に負担をかけないでバックグランドで行います。結果として利用者には全く認証のための負荷をかけることなく、非常に高度な認証を常に行うことができます。様々なセキュリティソリューションの利用の際に複雑な設定や面倒なパスワード管理も必要がなくなり、あらゆる層のユーザーが様々な素晴らしいサービスを利用する機会を劇的に増やします。

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―― 非常に画期的なアイディアの認証技術ですね。それに加えて「ファイルを分散する」仕組みがあるんですよね?
はい。ファイル分散の仕組みですが、前段で説明した認証の技術と対で利用することで最も簡単で堅牢なファイル管理を実現できます。現在クラウド上でデータ管理を行うのが一般的になりつつあります。DZ-Securityのもう一つの仕組みとして、クラウド上にあるデータを情報漏洩の危険から守るため、複数のクラウドにファイルを分散保存する仕組みをつくりました。

ユーザーが任意に契約(利用)しているクラウドドライブがA社とB社あるとします。これを論理的に一つのクラウドドライブ(DZ独自の「仮想クラウドドライブ」)のように取り扱うことによって、DZ-Securityでアップロードされたファイルは物理的には自動でバラバラにファイル分散され保存されます。仮にA社のクラウドのアカウント情報がハックされたり、盗まれたりしていたとしてもこれを誰も結合して復元することはできません。復元できるのは預けた本人だけであり、かつ「仮想クラウドドライブ」からファイルを選ぶだけの簡単操作で復元が可能になるんです。

通常のクラウド管理と操作は全く同じですが、生体認証を含めた「振る舞い認証」とクラウドへの分散保存により最小の手間で最高に安全な状況でコストもかけないでデータ保存できます。

この「独自の生体認証」と「ファイル分散」を組み合わせることで、利便性が高いのにもかかわらず、強固なセキュリティシステムになっています。

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10年構想を実現させ、“セキュリティ不安”のない世界をつくる

―― ムラテックさまとはどのようなサービスをリリースされたのでしょうか?
ムラテックさまは、非常にセキュリティレベルの高いNAS(ネットワーク上に接続することができるハードディスク)を開発されているので、そこに「DZのファイル分散技術」を応用していただくことになりました。スマートフォン向けに開発をしていた分散技術をNAS用に最適化した形ですね。

―― 最後に、今後の展望を教えてください。
「PMEngine」も「DZ-Security」も10年前に構想したサービスでした。ようやく双方が形になったところで、今度は二つの技術を掛け合わせていきたいと考えています。たとえば、「DZ-Security」の認証は、その人がよく行く場所なども振る舞いとしてデータ蓄積します。「PMEngine」はカレンダーと連携してユーザーの行動予定をデータとして蓄積するサービスです。これが組み合わさればより精度の高い認証の仕組みとなります。

高度で素晴らしいセキュリティはたくさんあります。しかしながらどうしても簡単で便利に使えるのかというとそうではなく、どうしてもトレードオフの関係になります。私たちは誰でも簡単に利用ができて利用者本人以外には誰にも情報漏洩しない。そんなセキュリティの世界を実現するために努力を続けてまいりたいと思います。
 
 
Anchorz:http://anchorz.co.jp/
 
ライター:オバラミツフミ
 
前編はこちらから
 
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10年構想を形に。“オタク談義”から始まった「AnchorZ × ムラテック」の協業とは?【前編】

AnchorZ 代表取締役 徳山真旭氏

技術力に強みを持ち、日時情報をカレンダーに自動登録する「CalPush」を展開するAnchorZ。そんな同社が新たなビジネスパートナーとしてタッグを組んだのがムラテックだ。

「ウマが合う」。そんな属人的な背景から協業が決定し、構想段階のビジネスプランを共同でブラッシュアップ。双方の技術力を掛け合わせたセキュリティシステム「ファイル分散によるセキュアなNAS」の開発が始まった。“認証の手間がなくなる”世の中を目指す同社代表取締役 徳山真旭氏に、協業に至るまでや、独自の特許技術への10年構想、その先に見据える既存事業と新規事業のシナジーを伺った。

“オタク談義”から協業が決定。「まずは会ってみる」がスタートだった

―― まずは、AnchorZの事業内容について教えていただけますでしょうか。
現在は、日時情報をカレンダーに自動登録する「CalPush」を提供しております。ネットワーク上を往来する膨大なテキストの中から日時や場所の情報だけを抽出するアルゴリズム「PMEngine」で世界特許を取得しており、その仕組みを利用しながらカレンダー通知を行うサービスです。

まずは、企業さまのホームページ内にJavaScriptのコードとタグを挿入。その状態で、日時情報を記載したイベントがタップされた場合、顧客のデバイスに付属するカレンダーに自動登録される仕組みになっています。

―― どのような企業にご活用されているのでしょうか?
一つ具体的な例を挙げると、テレビ局さまです。番組HPにアクセスしたユーザーが放送日をタップすると、カレンダーに自動登録され、登録されたデータも活用できます。このように、イベントや新製品の発売日などを自動登録することでリマインダー効果により売上や集客の伸びがあるため、販促活動の一つとしてご利用いただくケースが多いです。

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徳山真旭氏

―― 今回、「crewwコラボ」に応募していただいた背景を教えていただけますか?
弊社のサービスを通じて何か新しい取り組みができればと考え、応募させていただきました。そこでムラテックさまからお声がけをいただき、共同研究を行うことになったんです。現在はサービスのリリースに向けて鋭意開発しています。

―― 「CalPush」の技術を応用した共同開発でしょうか?
いえ、それが全く違うんです。既存サービスの「CalPush」を通じた技術開発をすることがもともとの目的ではありましたが、まだリリースしていないサービスの技術を用いて新製品を開発することになりました。

ムラテックの担当者さまが、「まずは一度会ってお話をしましょう」とのことでしたので、何か目的があるわけでもなく弊社の概要についてお話をしていました。非常に技術に造詣の深い方でしたので、どうやって「CalPush」を開発したのか一生懸命にお伝えしたんです。

私も技術が好きなので、話が盛り上がり“オタク談義”になりました。そこで、まだ構想段階だったサービスの話もしたんですね。「一応、今進めているプロダクトのお話もしておこうかな」くらいの気持ちで概要をお伝えしたところ「こちらの方がよりシナジーあるんじゃないか!」とさらに盛り上がりました。私としましては、予期せぬ形で協業が決定したんです。

―― 構想段階で協業が決定するのは、なかなか難しいことですよね。決め手はなんだったのでしょうか?
純粋に「ウマが合ったから」だと思います。ビジネスを考える以前に、お互いが好きな話で意気投合した結果協業が決定したので。「まずは共同開発をしよう」と、最初に約束だけしていただきました。

昨年の11月に初めてお会いし、4ヶ月後には共同開発契約を締結。そこから社内の方を何名かご紹介していただき、企画をブラッシュアップしていきました。9月には注文をいただき、現在に至ります。

実績のないツールは、実際にどのような効果を発揮するのか全く先が見えません。仮に技術に強みを持っていたとしても、ビジネスと成立しなければ意味がありませんよね。ただ、技術の相性は良いですし、何よりお互いが「何か面白いサービスを作ろう」と共通の目的を掲げていたことが決定打になりました。先方の上役にあたる方々も新しい事業に取り組むことへの柔軟さと決断力をお持ちで、大企業にありがちな「盛り上がるだけ」にはならなかったことはムラテックさまの懐の深さを感じました。
 
 
Anchorz:http://anchorz.co.jp/
 
ライター:オバラミツフミ
 
後編の公開は1月3日(水)を予定しております。
 
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潜在ニーズにシナジーをかけられるか?「フーモア×あいおいニッセイ同和」異業種コラボの実現【後編】

株式会社フーモア 漫画事業部マネージャー 白壁和彦
株式会社フーモア 制作マネージャー 井本洋平
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 宮崎健太朗

漫画でインナーコミュニケーションを強化する“想定外”のオープンイノベーション

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宮崎健太朗氏

―― では、当初描いていた事業とは違う協業が実現しているということですね?
宮崎:はい。当社としてオープンイノベーションプログラムに挑戦するのは初めての試みだったので、最終的なゴールは描きつつお互いの意思疎通を行っていくと、「まずは社内のインナーコミュニケーションに効果があるのではないか」との結論に至りました。

保険は商品や業務が複雑で、慣れるまでには時間がかかります。文面だけでは理解に苦しむところを、漫画を利用することで解決できるのではないかと考えました。ここで実績が出れば顧客向けのプロモーションにも効果を発揮できると考え、効果測定も兼ねた取り組みから始めています。

―― 大手企業とベンチャー企業は組織文化が異なるため、意思疎通が難しい場面も少なくないのではないかと思います。こうした方向転換を生んだ具体的なきっかけがあったのでしょうか?
白壁:協業するにあたり、大手企業さんは自社の課題を掲げています。もちろんその課題を解決し成功に導くことが使命ですが、協業の可能性はそれだけに止まりません。弊社の場合はIR情報等もチェックし、事前に提供できるリソースを明確にした上で複数の提案ができるよう準備しています。そうすると、見えていなかったニーズとシナジーを生むことがあるんです。

宮崎:今回のインナーコミュニケーション強化の取り組みは、まさにそうしたフーモアさんの姿勢によって生まれました。

―― 実際に今回の取り組みは効果を発揮しているのでしょうか?
宮崎:当初は「本当に漫画でコミュニケーションが円滑になるのか」という思いもありましたが、漫画で制作した社内向けのマニュアルは好評です。たとえば社内風土を変革しようとしたときに、文面だけのメッセージや宣言するだけでは伝わりきらなかった部分が浸透しやすくなりました。

以来、社内で新たな取り組みをする際に「漫画で作ろう」と声が上がるようになり、数字では測れない部分で効果を発揮していると感じます。

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井本:もともと漫画の持つコミュニケーションの力には絶対的な自信を持っていました。例えば、バナー広告に漫画をつかうことでクリック率が改善されたり、WEBコンテンツに漫画を使うことで、離脱率や滞在時間を改善できるといった数値でも計測をしています。

今回は、ビジュアルによる「興味喚起」とストーリーによる「疑似体験」の力をインナーコミュニケーションで活用することができました。

成約率向上よりも大切なこと。「後悔のない世界」を目指す異業種コラボのゴールとは?

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―― 今後は今回の実績をもとに、もともと描いていた顧客向けのプロモーションへと踏み込んでいくのでしょうか?
宮崎:保険商品は複雑で、すべてを漫画で説明することは難しいので、ニーズ喚起を目的にしたサービスを展開していければと思っています。

白壁:一番最初にご提案したときのゴールは、「保険に入っておけばよかった」という後悔がない世の中にすることでした。保険の成約率はもちろんですが、あいおいニッセイ同和さんの描く世界観の実現に向け動き出したところです。

宮崎:弊社のみならず、世の中一般が抱えている課題を解決したいと考えています。事故が起こった後に保険の重要性を理解するのでは遅い。悲しい想いをする前に保険というサービスの有用性を知ってもらうには、漫画が大きな効果を発揮するのではないでしょうか。サービスを売るだけではなく、世の中に保険の大切さを知ってもらうきっかけになれば嬉しいです。

―― 両社ともに初めてのオープンイノベーションだとお伺いしました。最後に、これまでの経験を通じて得た教訓を教えていただけますか?
白壁:一般的にベンチャーは意思決定が早く、大手は遅い印象をみなさんお持ちだと思います。しかし、実はそうではないんです。スピード感は同じでも、組織の規模に比例してかける労力や必要なステップが大きくなっているだけ。そうしたイメージとのギャップは少なからずあるので、お互いの意思疎通、状況把握を怠らないのは大切だと思いました。

宮崎:スタートアップは、世の中の動きや日々変化するビジネスのトレンドに敏感です。私自身、さまざまなスタートアップとお話しさせていただいていますが、非常に勉強になります。企業の規模は関係なく、お互いに学ばせていただいている認識を持つのは重要です。

井本:スタートアップが大手さんとコラボする場合、自社のサービスに自信を持っていることが絶対の成功条件です。しっかりと有用性をアピールし、柔軟に対応することを心がけていればおのずと成功するのではないでしょうか。今回あいおいニッセイ同和さんとのコラボがそうであったように、当初の目的とは違う部分で横展開できることもあります。まずは小さく試し、形にして、小さな信頼を積み重ねていくことが大切だと思います。

whomor [フーモア]:https://whomor.com/
あいおいニッセイ同和損保:http://www.aioinissaydowa.co.jp/

ライター:オバラミツフミ

 
―― 前編の記事はこちら
 

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潜在ニーズにシナジーをかけられるか?「フーモア×あいおいニッセイ同和」異業種コラボの実現【前編】

株式会社フーモア 漫画事業部マネージャー 白壁和彦
株式会社フーモア 制作マネージャー 井本洋平
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 宮崎健太朗

日本独自の文化である「漫画」を主軸にビジネスを展開するフーモア。設立から5年目のスタートアップながら大手企業をクライアントに持つなど、コンテンツ制作を武器に快進撃を続けている。

そんな同社が「crewwコラボ」を通じて協業したのが、全くの異業種である、あいおいニッセイ同和損保だ。当初思い描いていたコラボから軸足を変えつつ、相互のリソースを掛け合わせることに成功した両社。大企業×スタートアップの異業種コラボが実現した背景をフーモア漫画事業部マネージャー白壁和彦氏、制作マネージャー・井本洋平、あいおいニッセイ同和損保・宮崎健太朗氏に聞いた。

「保険×漫画制作」異業種のコラボが実現した理由

―― まずは、フーモアの事業内容について教えていただけますでしょうか。
白壁和彦(以下、白壁):弊社は「クリエイティブで世界中に感動を」をビジョンに掲げ、イラスト制作や漫画制作を行う会社です。イラストレーターや漫画家などのクリエイターネットワークを擁し、弊社がディレクションすることで企業に最適な内容とクリエイターをご提案しています。最終的には、漫画で世界中に感動を届けることを目指しております。

―― 競合他社と比較し、フーモアが持つ強みを教えてください。
白壁:外部におよそ6,000名のイラストレーター、400名の漫画家の大きなネットワークを持ちながら、自社の社員もイラストレーターや漫画家が半数を占めるところでしょうか。案件をやりとりする際、言葉や会話だけは最終的なアウトプットをイメージしづらく、クライアント様からすると良い悪いの判断が難しい。しかし弊社は自社に作家が在籍しているため、依頼内容を提案時からビジュアルで表現し、早期段階からイメージを共有することができます。

―― クリエイターが社内に多数在籍していることで、スムーズなやりとりができるということですね。

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(左より)白壁和彦氏、井本洋平氏

井本洋平(以下、井本):クラウドソーシングのように、弊社ネットワークの外部クリエイターに依頼することもありますが、時には緊急の依頼をいただく場合もあります。仮にそうした事態が発生しても、社内にクリエイターを抱えておりディレクション時間を短縮できるため、問題なく対応することができます。また、中には指名いただくようなクリエイターもおり、抜群の制作力を持っているのでコンテンツのクオリティの高さも大きな強みです。

―― 今回、「crewwコラボ」に応募していただいた背景を教えていただけますか?
白壁:コンテンツ制作に強みを持ちつつも、次のステップとして制作の先にある「届けること」にも注力したいと考えていました。これまでにも実績があった漫画でのプロモーション事業に、より力を入れていこうというのが応募の理由です。今回はあいおいニッセイ同和損保(以下、あいおいニッセイ同和)さんとプロモーション漫画を掛け合わせることで、商材が複雑で重要性や魅力を伝えきるのが難しい保険という分野に「新たなコミュニケーションの在り方」を創れるのではと思い、コラボをさせていただきました。

―― 協業までの経緯を教えていただけますか?
宮崎健太朗(以下、宮崎):既存の事業に新たなエッセンスを加えたいと考えており、「crewwコラボ」を利用させていただきました。これまで着手したことのない領域との協業を目指すにあたり、漫画はうってつけだと感じたんです。言わずもがな、漫画は日本独自の文化なので、プロモーションに絶大な効果があるだろうと思いました。

―― すでに漫画を用いたプロモーションは始まっているのでしょうか?
宮崎:いえ、現在は新入社員など社内向けの研修資料を漫画でデザインするところから始めています。

 

 

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個性的な声が集まるニュースメディア「Voicy」がスポニチと組んだ理由【後編】

株式会社Voicy 代表取締役 緒方憲太郎氏

株式会社VoicyのCEO 緒方憲太郎さんインタビューの後編です。後編では創業経緯やcrewwコラボへ参加したきっかけ、コラボのポイント等を語っていただきました。

大企業の延命を助けるためにスタートアップは存在しているわけではありません。組むことで、世の中のために大企業とスタートアップで何を提供できるのか、互いに尊重した協力ができるかどうかの視点が大事です。

―― Voicyのようなユニークなアプリで起業された緒方社長ですが、もともと公認会計士という“堅い職業”に就いていたそうですね

とにかく人が好きで、その影響なのか色んな人が集まる「会社」という存在が大好きだったんです。大学時代は物理学を専攻していたのですが、卒業後に経済学部に入学しています。寝ても覚めてもテニスに熱中するあまり、“理系”の道を諦めたという面がないわけではありませんが、会社好きだったということも決断した要因です。

社会に出たらとにかく多くの会社に携われる仕事がしたい、と考えた時に浮かんだのが公認会計士でした。経済学部に入ってから猛勉強して卒業の年に資格をとり、大阪の新日本有限責任監査法人でお世話になりました。

―― 4年ほど公認会計士として活躍された後、世界を放浪されたとか

1年かけて30カ国以上を巡ったでしょうか。最終的にはニューヨークで就職して働くことになったのですが、海外放浪中米国ボストンでは医療系NPOを立ち上げたり、オーケストラのマネジメントをしたり、ニューヨークでは日本人のコミュニティを作ったり、現地でも多くの人とつながりを作りながら生活していました。かつてニューヨークで立ち上げたニューヨーク若手日本人勉強会というコミュニティは、今や1900人規模にまでなっているそうです。

―― 帰国後はトーマツベンチャーサポートでベンチャー支援に注力されています

米国でゼロからコミュニティや事業を立ち上げる楽しさを経験したことや、トーマツとご縁があって「一緒に面白いことをしよう」と誘っていただいたのがきっかけです。

無のところから新たな価値を生み出すというスタートアップの支援は、本当にやりがいがあり、まさに天職だと思いました。当時は日本で一番ベンチャー企業をまわった公認会計士かもしれません。今も6社ほどの企業の顧問をさせていただいているのですが、やはり最終的には自分でもやってみたいという思いが強くなりまして・・・。特に、メディアは表現の部分でまだまだ変われるはずだという思いとアイデアも起業前から持っていました。

―― スタートアップ支援の“プロ”だった緒方社長がcrewwを知ったきっかけは何だったのですか

ベンチャー支援を専門にしている企業に勤めていましたから、当然知っていまして、まさにcrewwはライバルですよ(笑)。われわれには監査法人特有の品質の高いコンプライアンスという縛りもありましたので、crewwはしがらみなく自由に素早く動けていいな、との思いを、どこかで持っていました。当時自分のやりたいと思っていることを次々先にやられてしまっている感じでした。

自分が起業してからは、crewwコラボを通じてスポーツニッポン新聞社さんと繋がることができ、本当に感謝しています。

―― スタートアップの失敗も成功も数多く間近で見て来られたなかで、大企業との付き合い方という部分でアドバイスをいただけませんでしょうか

なぜ大企業と組む必要があるのか、深く考える必要があります。言い方は悪いかもしれませんが、スタートアップが唯一、大企業に勝っているのはスピード感、つまり意思決定の速さだけです。それ以外はだいたい大企業のほうが優れています。そのなかで両者にメリットがないのに組んだとしても、誰も得しません。

大企業の延命を助けるためにスタートアップは存在しているわけではありません。組むことで、世の中のために大企業とスタートアップで何を提供できるのか、互いに尊重した協力ができるかどうかの視点が大事です。それがないのに組んでもスタートアップ側にメリットはないでしょう。

また、コラボする際の細かな部分で言えば、大企業側の「稟議」がどういうプロセスになっているのかを知っておくとスムーズに進みます。できうる限り、最終意思決定者に近い人から話をしておかないと、途中で条件が変わってしまうことや、終盤で話がひっくり返されることもあります。頼る人や握る人を選ぶということもスタートアップが上手く大企業と組むために重要だと考えています。

―― 深いアドバイスをありがとうございました

緒方憲太郎さんのcrewwページ
Voicyの公式サイト