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イノベーションを起こすためには同じ目線でのコラボレーションを

株式会社大京グループ 経営企画部 担当部長 武石直人

「ライオンズマンション」のブランドで知られる大京グループは、不動産の開発から管理、流通までを幅広く展開する大手不動産サービス事業者です。そんな同社が2015年から新たに始めたのは高齢者向け住宅事業。記念すべき第1号の「かがやきの季(とき)中野南台」には、スタートアップの株式会社エクセリーベ(東京都新宿区、大橋稔CEO)が開発したテレビ電話による見守りサービス「見守りん」が採用されています。大手不動産グループとスタートアップによるコラボレーションは、どのように生まれたのだろうか。同社グループ経営企画部の担当部長である武石直人氏に聞いた。

 

社会変革を起こす新ビジネスを目指し、社内の枠組みから脱却

―― 大京グループがスタートアップとの「オープンイノベーション」を採り入れた背景を教えてください

大京グループは、株式会社大京を中心とした不動産サービス事業を提供する企業グループとして、お客さまのライフステージに応じたさまざまな住まいと各種サービスを提供しています。住まいの向上を通じ、心の充足を高めるための「住文化」を創っていくことが経営理念です。

例えば、「ライオンズマンション」は首都圏を中心に大阪や名古屋などの大都市圏に多数ありますが、マンション間での“横のつながり”はありません。入居者の方々とともに「住文化」を創っていくうえで、何らかのコミュニティを築けないか、との課題意識が社内にありました。

大京グループ内では、公募型のビジネスモデル提案制度「大京イノベーションアワード」を設け、2012年より社内から新規事業の芽を見つけ出す試みを行ってきました。一方で社会の変革を起こすようなイノベーションは、社内の枠組みを抜け出してみることもご必要だと考え、2014年からCrewwと提携し、プラットフォームを使わせていただくことになりました。

 

――Crewwとはどのようなきっかけで出会われましたか

証券会社さんからご紹介いただきました。私自身は以前ベンチャー企業にいたこともあり、自ら事業を興す人に対するリスペクトがあり、ベンチャーの方とお会いしたり、何かを一緒にしたりすることに対してはまったく違和感がありませんでした。

ただ、当時のCrewwの担当者である伊地知中(いじちあたる)さんはかなり長髪の風貌でいきなり現れたので、部署の他のメンバーはびっくりしたかもしれませんね(笑)

 

―― 社員数が5000人を超える大きな組織のなかで、外部の力を採り入れてイノベーションを起こすとなると難しい面もあるかと思いますが、社内的な苦労はありましたか

先ほど申し上げたように、大京グループは社内でもイノベーションを起こそうという土壌があり、課題も明確になっていましたので、社内的にはそれほど大きな障壁はありませんでした。

もう一つ、Crewwのプラットフォームを活用させていただくにあたっては、経営企画部が持つ予算の範囲内でできたことも大きなメリットでした。もし、全社的な経営会議に通すほどの予算が必要であったなら、これほどすんなりとはいかなかったかもしれません。

 

―― スタートアップとのコラボレーション先はどのように探されたのですか

弊社が構想していた「ローカルO2O(オー・ツー・オー=Online to Offline)」というコンセプトを実現できそうなビジネスモデルをお持ちのスタートアップをCrewwのプラットフォームから探しました。

まず40数社を見つけ、部内のメンバー3名が各社の方々とメールを通じて細かなやり取りを行ったうえで、約20社に絞らせていただきました。

各社のビジネスモデルを理解するところから始めなければならず、ひとりあたり10社以上を担当する形となったため、部内のメンバーもやり取りにはかなりの労力が必要でした。

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―― スタートアップを20社に絞った後はどうされたのですか

弊社へお越しいただき、役員も含め10名の前で、1社あたり50分以上かけてビジネス案をプレゼンテーションしていただきました。スタートアップの方とはメールを通じたやり取りだけでしたので、リアルの場でお会いしたのはこの場が初めてです。

メールを通じ、スタートアップの方々と長時間やり取りしてきた我々は、ビジネスモデルの細かな部分を尋ねることが多かったのですが、役員クラスはどちらかというと、ビジネスモデルよりも起業家の志(こころざし)やチームの統一感という部分を見て、質問を投げかけていました。

 

―― こうしたプレゼンの場を設定するとなると業務的にも大変です

いえいえ、準備や運営はCrewwさんがやってくれましたので(笑) それよりも、最初にスタートアップの方とやり取りする「ブラッシュアップ」の部分では、文字情報だけで丁寧にやり取りする必要があったので、ここがもっとも苦労した部分です。

 

―― 20社のビジネスモデルのなかに、今回コラボしたエクセリーベが開発したテレビ電話による見守りサービス「見守りん」があったわけですね

エクセリーベさんのビジネスは、テレビ電話などのIT機器を通じて話を「傾聴」することで、人の心を豊かにしていきたいとの理念が根幹にあります。そのためか、大橋稔さん(CEO)のプレゼンには非常に落ち着きがあり、聞いている側は不思議な安心感を与えられました。

このプレゼンを聞いていたなかに、高齢者向け住宅事業推進リーダーがいて、「これはいい!」とほれ込み、今回のコラボにつながりました。

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―― 今回、オープンイノベーションを実施したことで、社内や部内で何らかの変化はありましたか

不動産という業界には、どちらかというと昔ながらの仕組みが残っており、元請けや下請けなど、ヒエラルキー(階層)のなかで動かなくてはならない面があります。

そんな世界に慣れていた若い社員のなかには、スタートアップの“フラットな世界”にカルチャーショックを受けるともに、「こんな楽しいことをやっている人たちがいたのか!」と目を輝かせていたのが印象的です。良い意味での異文化交流になったのではないでしょうか。

 

―― オープンイノベーションに対して、現段階で社内ではどのように評価されていますか

昨年、Crewwさんと提携したことを社内外に大々的に発表したため、スタートアップとのコラボがどんどん進むのではないか、との大きな期待が社内にあります。一方で今のところ、成立したコラボは1社だけですので、そういう意味では、社内で厳しい目を向けられることもあります。

弊社は上場企業故、経営層は常に株主のみなさんから厳しいプレッシャーの元、定量的な結果をだすことを求められます。一方で、スタートアップとのコラボは短期間で成果を出せるものではありません。運とタイミングも大切です。一般の経営課題に関する時間軸ではなく、芽が出るまでに時間がかかるというスタートアップの特性を考慮したうえで、異なるロジックで、社内的な評価をしていく土壌を作らなければならないと個人的には感じています。

 

―― これからオープンイノベーションを採り入れようとする企業に対して、アドバイスをお願いします

先ほど申し上げたように、スタートアップとのコラボは成果が出るまでには時間がかかるものですから、経営層の強い意志とコミットメントが必要です。芽が出るまでの胆力が問われます。

そして何よりも大切なのは、スタートアップの皆さんと同じ目線で、「イノベーションを起こしビジネスを一緒に創っていくんだ!」という姿勢です。そこには上も下もなく、囲い込むなんていう思想もない。常に「Win-Win」で、お互いをレスペクトしながら新たなモノコトを創造していくんだという気概が必要です。

日本の大企業は、大手ならではの優れたインフラを持っているのですから、ベンチャーを育て、盛り上げていくエコシステムを作る一躍を担わなければならないと強く感じています。それが日本を元気にすることにも繋がると信じています。

 

―― ありがとうございました

 
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