intrapreneur_life_motokawa

【イントレプレナーライフ】無理な新規事業はいらない。 大事なのは社会への貢献と広い視野。

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【another life.タイアップ特集】歴史ある製造会社の中で経営企画部として社内のプロジェクトに携わりつつ、新規事業の企画を担当している本川さん。攻めよりも守りに意識が寄りやすい大手企業の中で、新しい事業を生み出す際心がけていることとは。お話を伺いました。

父に学んだフロンティアスピリット

出身は広島県世羅町です。すごく田舎だったので、普段は友だちとケイドロしたり、サッカーをしたり、外で遊ぶことが多かったです。

父は外資系の保険会社のセールスマンで、広島市内に単身赴任をしていました。世界一のセールスマンとして何度も表彰されるような人で、家族でMVP旅行に連れてってもらったりしました。そんな父から、中学生になるくらいから、政治経済、歴史、心理学といった難しい本を課題図書のように渡されるようになりました。尊敬していたので素直に従い、授業の合間などに読んでいました。

また父からはよく最先端のツールや、今後世の中がどうなっていくのかといった話を聞かされていました。例えば、中学の時、まだインターネットがそんなに普及してなかったにも関わらず、将来は店に行かなくても物が買える時代が来ると言っていました。頑固で厳しい父でしたが、周りが知らない情報をいち早く仕入れ、常に先を考える姿勢を小さいころから尊敬していました。

地元の高校に進学して最初の夏休み、父からの勧めで3週間ほどオーストラリアに留学しました。英語はまったく話せませんでしたから、最初は苦労しましたが、様々な体験を通して自分でも珍しいものや新しいものに興味を持つようになりました。

高校卒業時、どの大学に進学するか迷いましたが、高校時代の経験からもっと海外に行きたいと思い、留学が盛んな学校を選んで進みました。

出向で得た広い視野と生み出す意識

大学4年の時にもっと外国で勉強したいと思い、大学院に進学し、オーストラリアに2年間留学しました。

帰国後は、自分の留学経験が活かせるかもしれないと思い、海外大卒を積極的に採用している自動車部品メーカーの経営企画部に入りました。そこで2年働いた時に、会社の方針で総務省に出向することになりました。最初は断ろうと思ったのですが役員の方から「小さな世界にいないで、もっと大きな世界を見てきなさい」と言われ。父にもまったく同じことを言われました。

僕にしてみたら、会社の売上は2兆円近くあり、すごく大きな世界で働いていると思っていました。それなのに「小さい世界だ」と2人から言われ、「大きな世界」とはどんなものかと思い、出向することにしました。

総務省では、自分の専門分野以外のさまざまな仕事を経験させてもらいました。色んな企業から出向している人がいましたし、スイスで国際機関の会議に出させてもらった時、世界中の立場の異なる国の人たちが集まる中、調整しなければならない利害関係の規模が民間企業とは比べ物にならないくらい大きいことを目の当たりにしました。それまで僕がいた一企業の世界と比べれば、役員の方や父から言われたとおり、ずっと大きな世界に思えました。

また総務省では、大手ベンチャーの経営者の方と一緒に仕事をする機会もあり、今までいた世界とは全く違う世界の話を聞き、すごく刺激を受けました。

たとえば、動画の個人投稿が可能なプラットフォームをはじめいろいろなサービスを展開しているベンチャー企業の会長と一緒に仕事をした際、プラットフォームを作るとそこに人が集まってきて、集まってきた人達がクリエイティブなものを生み出していく、という話を聞きました。PCやスマホなどのプラットフォームは海外発のもので、このままでは日本はそのプラットフォームに、コンテンツを提供するだけになってしまう、と。自分がいるモノづくりの世界とはまったく異なる話で、ここでも視野が広がりました。また、自分も新しく何かを生み出す仕事がしてみたいと強く思うようになりました。

周りを尊重しながら新しいものを生み出す

2年後、出向から戻り、新規事業の立ち上げを任されることになりました。ちょうど同じ頃、目の病気になってしまいました。急に右目の真ん中が見えなくなって、病院に行くと最悪失明するかもしれないと言われました。治療法はないとのことでした。

いきなりのことで辛くて仕事も手につかないし、起きて目を開けたら見えなくなっているかもしれないと思うと眠るのも怖いくらいでした。そうやって弱い立場になると、自分がどれだけ周りの人に支えられてきたかがわかりました。目の病気は2週間くらいで急に戻ったんですが、それ以降、病気をする前より、周りをないがしろにしてはいけないと思うようになりました。

新しいことを生み出すにしても、自分がやりたいと思ったことをただ他人に押し付けてもうまくは行かないし、そもそも新規事業といっても他の事業で出ている利益を使わせてもらってはじめて取り組めます。そんな当たり前のことに気がつくようになったのです。

それから5年くらいその会社にいて、最後の2年は本業の自動車の部品に関わるマーケティングや海外展開に携わらせてもらったんですが、やはり、新規事業や経営企画をやりたいと思って転職することに。

転職先は、自分の経験を活かせるよう、前職と同じ製造業の業界であり、また海外のフィールドでも仕事をしていた機械部品メーカー、NOK株式会社に決めました。配属されたのは経営企画室で、業務内容として、半分は取締役会などの大きな会議体、プロジェクトなどの取り回しで、もう半分は新規事業やM&A、既存事業の拡大を通じたイノベーションです。

転職して、新規事業と既存事業の両方に関わることで、組織の中と外が両方見えるメリットを感じました。以前はどちらか一方だけをやっていましたが、新規事業だけやっていると、自分たちが尖っているように勝手に思って、既存のものを否定していまいがちです。

そうすると、「新規事業は利益を生んでくれる既存の事業があるからできるもの」だということが見えなくなってしまい、既存事業の人たちとのコミュニケーションが上手くいかなくなって軋轢が生まれます。それはストレスもかかりますし、組織体として非常にまずい状況です。だからこそ、新規事業の担当であっても既存の事業にも関わり続けることは重要なのだと考えるようになりました。

長期的に社会に貢献するために

現在は事業推進本部のグループ経営企画部で社内の業務と新規事業の立ち上げの両方を行なっています。

特にオープンイノベーションには力を入れていて、最近ではCreww株式会社が運営しているアクセラレータープログラムに参加しています。アクセラレータープログラムというのは、企業のリソースを提示して、それを活用したいスタートアップと協力して新たな事業や価値を生み出していくことができる取り組みです。

自社は、歴史が古く、比較的大規模で安定した事業展開を行なっている一方で、これまで取り組んだことがないものに挑戦することに慣れていません。社内のリソースだけで新しいことをやろうとしてもなかなかアイデアが出てきませんし、そもそも時間がかかります。そこで社外からアイデアを集めたり、外部の技術を取り入れ、新しいものを作るためにプログラムに参加をしています。また、熊本、静岡、茨城、福島など日本各地で開催されているベンチャーやスタートアップが集まる創業イベントやビジネスコンテストへの協賛も行っています。その地域の特色あるスタートアップやアイデアに出会える貴重な機会です。

僕は、ちょっとひねくれた言い方になりますけど、しっかりとした事業基盤があり、商品やサービスで世の中に大きく貢献している企業では新規事業を無理やりやる必要はないと思っています。会社の価値は、何十年ものあいだ、しっかり雇用を生み、利益を出し、税金を払い、社員を含めたステークホルダーを幸せにしている所にあると思うからです。すでにそういう会社になっているのに、それを壊してまで新規事業をやる必要はありません。

だからこそ、新規事業に取り組む際には、見た目の派手さだけではなく、その事業は社会に必要とされているのか、会社にとってメリットはあるのか、社員は受け入れてくれるのかなどしっかり考えて、その会社にあった形で作っていかなければならないと思うのです。

僕は、これまで取り組んだことのない領域含めて、自由に新規事業に取組んでいいよ、と言われても、どこまでの自由はOKで、どこからはNGなのか慎重に考えます。新しく進出する分野を検討する際に指針にしているのは、尊敬している人が、語っていた例え話で、「日本から南半球の南極まで一気に飛んでいくのはダメ、ASEAN地域やオーストラリア、インドネシアぐらいまでだったらいいよ」というもの。

つまり、いきなり今の業種とは全然違う分野に進出するのではなく、会社が活躍できる環境があるかどうかを考えるべきだということ。そして、取り組む新規事業が会社の価値を高め、社会で広く長く必要とされるものになれば、いずれ南極でも活躍できるようになります。これをできるだけ短期間で実現することに、僕は今取り組んでいます。

今後は純粋な製造業という枠にとらわれずにいろいろな可能性を探りながら、だけどどこかで製造業の香りがする事業を生み出していきたいです。製造業が社会の中で果たしてきた役割とこれからも果たしていく役割があると思ってるからです。

another life.制作 作成日:2018年12月07日

 

本川優樹/組織に合った新規事業の形を模索する
広島県の田舎育ち。大学進学後2度の留学を経験。大手自動車部品メーカーに約10年勤務し、NOK株式会社に転職、事業推進本部グループ経営企画部に所属し通常業務の傍ら新規事業の立案に携わる。